成功条件03
縦割り構造の組織がハイブリッドワークをしたらどうなるか?
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成功条件 02
新型コロナウイルス感染症の影響で、自宅やカフェなどで出社せずとも働けるテレワークが広がりました。しかし、オフィスの方が働きやすいという声も多く、今ではテレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを取り入れる企業が増えています。
テレワークが中心だった生活から久しぶりに出社してみると、周りの様子がよく見えて会話が弾み、「オフィスも悪くないな」と実感した人もいることでしょう。この周りの動きが見やすい状況は、確かにテレワークでは簡単には生まれにくいもの。柔軟な働き方ができるテレワークは魅力的ですが、出社しないと見えないものが多いと、情報の格差が大きくなり、チームがうまく機能しなくなることもあり得ます。
ハイブリッドワークをうまく動かすためにも、「周りの動きが見やすいオフィスの雰囲気」をテレワーク上でも再現したいところです。そんな方法はあるのでしょうか?
目次
パーソル総合研究所が公開している「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、テレワークにおける課題について
といった、周りが見えない、周りに見てもらえないことによる不安を感じている人が多いことが明らかになっています。
出典:新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査|パーソル総合研究所
また、プラス株式会社が実施した「ハイブリッドワークを行う会社員のオフィスに対する意識調査」によると、リモートワーク時の仕事の進捗に問題を感じることがあるかどうか聞いたところ、
といった声が多数寄せられています。周囲の様子が分かりづらいことで、業務に支障が出ているケースもあるようです。
出典:プラス、「ハイブリッドワーク※を行う会社員のオフィスに対する意識調査」を実施
確かに距離が離れていることでコミュニケーションがとりづらく、疎遠になることで孤独を感じてしまうこともあるでしょう。「やはり全員出社に戻すべきだ」と考える人もいるかもしれません。しかし、それだけでテレワークをやめてしまうのは、経営としても本当に正しいのでしょうか?
労働人口が減り続けている今の日本にあって、人材確保は大きな経営課題です。優秀な人材に働きやすい職場を提供することは大切ですし、出社が難しい人に活躍してもらうためにもテレワークは継続すべきです。そんなハイブリッドワークをうまく活用できる企業が、社員の力を引き出しながら、優秀な人材を呼び寄せ、最後には企業の利益につなげていけるのです。
ハイブリッドワークをうまく動かすためには、全員がオフィスで働くときに感じていた
といった「仕事の状況や気持ちの変化が感じられる状況」をハイブリッドワークでも生み出し、離れて働くことによる不安を解消できるかどうかにかかっているのです。
ハイブリッドワークにおいて周囲の様子や動きが見えないのは、メンバーの状況や、途中経過がオンラインで共有できていないことが理由の1つ。全員がオフィスにいるときは、遠目にメンバーの動きを見ながらでも様子がぼんやりと把握できたはずです。
「あの件の資料を作っているなら、こんな情報も盛り込んだほうがいいよ」
「さっき担当営業と話していたあの案件だけど、こんなアプローチはどうかな」
「画面とにらめっこして悩んでみるようだけど、どこに悩んでいるの?」
オフィスであれば、意識せずとも周りが見えてきますし、こちらからアプローチしてあげることもできます。自然に声がかけやすく、安心できるメンバーも多いでしょう。
しかし、メールや電話に頼ってテレワークをするメンバーには、オフィスにいるときのようなそうした状況は見えません。逆に、具体的に報告したいことや相談したいことがない限り、自分からわざわざ発信しづらいでしょう。
また、それぞれのメールの宛先に入っていないと、各案件の状況やメンバーの状況は周囲からは皆目見当が付かなくなり、サポートしてあげることも難しい、ということもあるのではないでしょうか。
では、ウェブ会議ツールを常時接続で使ってみるのはどうでしょうか。おそらくカメラ越しに監視されているような感覚があり、心理的なストレスにもつながってしまう恐れもあります。周囲の視線がほどよく当たり前にあるオフィスの感覚とはほど遠いものです。
ハイブリッドワークであっても周りが見える状況を作るには、どんな環境が理想的なのでしょうか。ここまでで見てきたとおり、それは一言で言うと「たとえ離れた場所であっても、まるで同じ空間にいるように仲間の様子が見える、感じられる仕組み」です。
具体的には、社内SNSのような仕組みがイメージしやすいのではないでしょうか。
最近では、音声をベースにオフィスにいるような空気感を作り出す音声チャットや、オフィスを模した3D空間に自身のアバターを展開するようなツールなど、テキスト以外の情報でバーチャルオフィスを演出するようなツールも登場しています。
ただ、さすがに音声チャットやアバターを使ったものは慣れている方も少ないはずで、普段の仕事に取り入れるのは無理かもしれません。しかしテキストを書き込むSNSなら、プライベートで利用している人も多く、すんなりと取り入れやすいはずです。
たとえばFacebookやTwitterといった普段個人で参加しているSNSでは、どんなことをつぶやいていますか。普段の考えを書き留めることもあれば、知り合いが行っている活動を応援することも、今日食べたランチについて批評することもあるでしょう。
自分の身の回りで起こった、日常のありふれたできごとをつぶやいているはずです。そんなつぶやきを眺めることで、普段顔を合わせることのない遠くに住む知り合いの近況を知り、どんな状況にあるのかを推し量れるのはイメージできるかと思います。
そんな活動を社内でやってみてはいかがでしょうか。普段相手が考えていることや置かれている仕事の状況などが見えてくれば、一人自宅にいることで感じやすい孤独を癒すこともできるはずです。
具体的にどんな風に運用するのかイメージが付きにくい方もいるでしょう。ここで、サイボウズの取り組みについて紹介します。
サイボウズでは、通常1日の終わりにその日に行った仕事の内容を書き込む「日報」以外に、分刻みにつぶやく「分報」と呼ばれるものがあります。報告というよりも、今取り組んでいる仕事の状況やそのときの気分といった「何気ないひと言」をつぶやくものです。
「これから○○について考えようかな」
「○○がようやく終わった、正直疲れた」
「そろそろお昼か、何食べようかな」
「ちょっと行き詰ったので休憩しよ~」
といった書き込みです。まさに社内Twitterのように使われているのが分報です。
実際の運用ルールでは、特に書き込む内容について制限を設けていません。仕事に関することはもちろん、気持ちの変化や勤怠状況、ちょっとした雑談など、分報にはさまざまな情報が書き込まれています。そんな書き込みを眺めていると、あたかもオフィスにいたときに感じることができた、周囲の状況やメンバーの気持ちを感じとれるのです。
そんな分報には、具体的な社内手続きについての不明点や困りごとなどもつぶやかれるため、解決策やアイデアを持っているほかのメンバーから助け舟が出ることもしばしば。まさにオフィスで感じられたチームワークが再現できるでしょう。
「入館申請の手続きってどうやるんだろう?」
「○○業界の提案書作っているんだけど、どの辺をポイントに絞るとウケるかしら?」
実際の例では、体調やメンタルに関するつぶやきもよく見られます。メンバーのつぶやきから、相手の状況を察することもできるようになります。
「なんか頭痛がする、ストレスか?」
「倦怠感がすごいな、月曜日だからかも」
もちろん、置かれている状況や今の気持ちを書き込むメンバーに対して、返信のコメントや「いいね!」といった、上司やほかのメンバーからのリアクションがあることも大切です。書き込んだことへ反応してくれる人がいることで、「上司から公平・公正に評価してもらえるか不安」といった悩みの軽減にもつながるかもしれません。
また、サイボウズの分報には、見せ方にもポイントがあります。書き込みがタイル状に並ぶことで見やすいだけでなく、オフィス内のあちこちから声が上がっているような雰囲気ができており、まさに同じオフィスで働いている感が出ます。
自分の気持ちを文字でストレートに表現することが難しい場合もあるでしょう。
サイボウズでは、今の気持ちを晴れ・曇り・雨といった「気分天気」として表現し、記載しているメンバーもいます。体調や気分などは簡単に言葉にしづらい非言語化情報のため、それを転機として表現してみると、周りの人もその状態を察することで声掛けのきっかけが生まれています。
文字でのやり取りだと、きちんとしたことを書かないといけないと思い込んでいる方もいますが、そんなことはありません。ハイブリッドワークにおいて表現したいのは、オフィスに一緒にいるときに耳に入ってくるような感情です。
たとえば「うーん」といったうなり声や「はぁ。」などのため息、驚きの「は?」など、オフィスにいるとどこからか聞こえてくるような言葉です。そんな些細な感情や声も文字で表現していいという、そもそもの認識からあらためていくのが1つのポイントです。
それでもハードルを高く感じる人は、まずは「いいね!」などのリアクション機能の利用から始めるのもよいでしょう。たった1クリックで表せる「いいね!」の気持ちだけでも、その人が近くで話を聞いてうなずいてくれているような感覚を、意外にも生み出せるものです。
一方で、「書き込みをすることで、逆にサボっているように思われないか不安」と感じる人もいることでしょう。何でも書いていいとメンバーに伝えても、急につぶやくことに抵抗を感じてしまうもの。そんなときは、上司からの積極的な発信や、公開範囲を限定しての運用スタートなどをおすすめします。
上司が発信すれば、「こんなこともでもつぶやいていいんだ」という雰囲気をチーム内に生み出すことができます。まずは上司が率先してつぶやきましょう。
「社長に見られたら…」いきなり全員につぶやきが見られてしまうことへの抵抗感を持つ人もいるはずです。まずは気心の知れたメンバーやチーム内など限定した範囲からスタートしてみましょう。
もともとオフィスにいる時間内では、雑談をしている時間が少なからずあったはずです。雑談自体が悪いことではないという共通の意識を持つためにも、オフィスで雑談していたことを認め合いましょう。出社した直後にPCを立ち上げている間、普通に雑談していましたよね。
周囲の動きが見えづらいテレワークにおいても、オフィスの雰囲気を再現することに役立つ社内SNSという仕掛けづくり。自発的に発信できる場を用意してあげることが、ハイブリッドワーク成功に向けて重要なものとなるでしょう。