オープンな場所に書き込むのが怖い…… ──DMだらけの閉鎖的な組織はどうしたら変われるのか? 専門家に聞いてみた

コラム

2020年以降、コロナ禍の影響もあり、急激に導入率が上昇したビジネスチャットツール「Biz Clip」の調査では、2022年時点でビジネスチャットを「導入している」と答えた企業が47.9%に上りました。いまや、ビジネスチャットツールは、テレワークで円滑に仕事を進めるうえで欠かせないツールとなりつつあります。

多くのビジネスチャットツールには、複数人で使用するオープンなチャンネルと、1対1で使用するクローズドなダイレクト・メッセージ(以後、DMとします)が存在します。いざビジネスチャットツールを導入してみたものの、「オープンなチャンネルに投稿するのは勇気がいる」と部下から言われた、いつの間にかDMばかりになっている……なんて状況に直面したことのある人もいるのではないでしょうか。

そんな状況を打破し、オープンなコミュニケーションを取れるチームを作るためにはどうしたらいいのか。心理的安全性の側面から成果の出るチーム構築について研究されている、株式会社ZENTech代表取締役の石井遼介さんに聞きました。

笑顔で立つ石井さん
石井遼介 株式会社ZENTech 代表取締役。一般社団法人日本認知科学研究所理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。行動分析の研究者として組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発するとともに、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。著書に『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)、監修書に『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)

DMだらけの組織は仕事の効率が下がる

ポイント

  • DM率が高いとチームや組織内の情報共有が不十分で仕事が非効率になる 
  • また、DM率が高いとチームのナレッジ蓄積のスピードも落ちる

ーーコロナ禍以降、ビジネスチャットツールの導入が急激に進んできました。石井さんは様々な企業や組織を相手に研修などをされている中で、チャットツールの使い方について相談されることはありますか? 

DMばかりになってしまって、会社や部署のメンバーみんなが入ったオープンなチャンネルや、プロジェクトのチャンネルに情報があまり上がってこないと相談されることはあります。

ーーDMばかりになってオープンなチャンネルに投稿されないと、どんな問題が発生するのでしょうか。

DMが増えすぎてしまうことの問題点は、メンバー間の情報共有が外から見えず、密室状態のコミュニケーションばかりになってしまうことです。その結果、本来の指揮系統や役割にはないはずの依頼を受けてしまう人が出てきたり、情報の不均衡やチーム内での重複した作業が起こってしまったりします。

その他にも「DMでやり取りをした2人間で合意したはいいものの、他のメンバーが付いてきていない」とか、「決定のプロセスや背景がチームに共有されないまま進んでしまう」といった状況が考えられます。

特に、チームとしての学習や成長という観点で重要な点は、DMばかりのやり取りではチームに知見が溜まっていかないという問題です。オープンなチャンネルでやり取りをすると、「こういう観点もありますよ」とか「それは僕が得意なのでやります」とか、かけ合わせで知見がさらに増える可能性が出てきます。

DMだけでやり取りするとこういった機会を逃してしまうので、チームで知見を溜めたり、増やしたりする効率が下がってしまいます。

真剣な表情の石井さん

DMが多い理由は組織の文化にあり?

ポイント

  • DMを沢山使ってしまう原因は、個人の性質だけでなく、オープンチャンネルで反応が薄い組織文化にもある
  • テキストコミュニケーションでは、変に気を遣って相手の投稿から「行間を読む」やり取りが生まれがち
  • 「行間を読む」コミュニケーションを防ぐには、情報の発信者側が相手に伝えたいことや依頼を明確に言語化することが重要

ーーでは、なぜDMばかりを使ってしまう人や、オープンチャンネルでなかなか投稿できない人が出てきてしまうのでしょうか。

DMを使う個人よりも、オープンなチャンネルに投稿しにくい状況を作ってしまっている組織を問うべきです。つまりは、メンバーそれぞれの反応に原因があるのではないかと思います。


具体的に言うと、オープンなチャンネルに投稿したときに、みんなの反応が良くないことは大きな要因です。少し自分がオープンなチャンネルに投稿したときを想像してみてください。投稿しても誰も反応をくれなかったら、どんどん投稿しにくくなっていきますよね。

だったら、直接1人1人に送ってしまおうと、DMを使うと思います。DMで反応がきたら「DMに送った方が反応を貰えるんだ」と学習して、オープンチャンネルを使わなくなっていきます。つまり、オープンにやるべきだと感じているなら、まずは誰かの投稿にあなたから、スタンプをつけたり、感謝を伝えたり、反応を返していくことがおすすめです。

ーー組織の文化的な部分に課題があるかもしれないのですね。一方で、個人に着目すると「文章を書くのが苦手だから、頻繁にオープンなところに投稿するのはハードルが高い」という意識のある人もいるかもしれないと感じました。

確かに、文章力は大事なテーマかもしれないですね。これまでも対面・口頭でのコミュニケーション能力は重要なビジネス能力でしたが、コロナ禍以降、文章で言いたいことを分かりやすく簡潔に記述できる能力、いわば国語力の重要性が上がったと考えています。

一方で、最近だとChatGPTなども登場して、文章の分かりやすさをAIで補完できる可能性がでてきました。文章力に課題を感じている人は、投稿する前に一度ChatGPTに確認してもらうのも良いかもしれません。

例えばざっと文章を書いて「次の文章を、仕事のチャットで投稿したいと思っています。伝わりやすくなるよう修正をお願いします。同僚に送る固すぎない文面でお願いします」といったプロンプトをつけると、そこそこ読みやすい文面になることも多いです。

ただ、AIにチェックしてもらう以前に、オープンチャンネル・DMを問わず、テキストコミュニケーションでは「行間を読みすぎる/読ませすぎる」という課題を抱えている人も多いように感じます。

落ち着いた様子で話す石井さん

ーー「行間を読みすぎる/読ませすぎる」とは、どういうことでしょうか?

例えば、「明日の午後イチまでにお願いします」という作業依頼が来たら、いつまでに作業しますか? なんとなく「本当は今日中にやってほしいのかな。急がなきゃ」なんて気を遣ってしまうことはないでしょうか。

依頼する側になった時は「本当は今日中が理想だけど、さすがにタイトすぎるスケジュールだから……」と少し余裕を持たせたスケジュールを伝えたものの、実際に作業が明日になりそうだとイライラしてしまう……、なんてことはないでしょうか。

このように、書かれている以上のものを読みとってしまったり、文章には表現していない部分で相手に配慮を求めてしまうのが、「行間を読みすぎる/読ませすぎる」ということです。チャットだと対面よりニュアンスも伝わりにくいので、お互いに変な気を遣い合って、疑心暗鬼になってしまうことってよくあるかと思います。

それに対する解決策として、私たちが主催している心理的安全性アワードで昨年入賞された株式会社ナラティブベースの我妻あかねさんから教えていただいた「社内ルール」があります。「勝手に行間を読む/読ませるのを禁止しましょう」という社内ルールを作っていて、すごくいい取り組みだなと思いました。

「明日の午後イチ」と書かれていたら、その言葉通りに受け取り、「本当は早いほうが良いのでは?」と忖度する必要はないと、社内で徹底しているんです。書く側も「書いた通りに受け取られる」ことを期待するわけです。

ーーニュアンスが伝わりにくいテキストコミュニケーションだからこそ、言葉通り受け取るのが大事なんですね。とはいえ、つい気を遣って行間を読んでしまう人も多いように思います。どうしたら行間を読まない/読ませないコミュニケーションができるのでしょうか。

実は受け取り手よりも、依頼や情報発信をする側が行間を読ませないように訓練するのが大事です。つまり、発信者が「自分は、相手にどうしてほしいんだっけ?」と、きちんと言語化してから依頼を出すということです。「相手にしてほしいことは何で、いつまでに、どのような形式で戻してほしいのか」を考えずに依頼を出してしまうこと、意外とあるのではないでしょうか?

発信者側の頭の中が整理されていると、作業の依頼であれば「〇時までにやってもらえば間に合うな」とはっきりするし、上司に何かを異議申し立てをするにしても「これって本当に上司に言ったら解決するのか?」と立ち止まって考えられます。相手にどうしてほしいのか? が明確になれば、それを丁寧に言語化して伝えればいいんです。

例えば急ぎの依頼であれば「なるはやで」ではなくて、「申し訳ないんだけど、今から2時間以内、17時までには確認してもらえないかな? お客様がどうしても今日中に欲しいと仰っていて」と緊急度が伝わるような理由もつけて伝えます。そういった考え方ができるようになると、自分が受信者になった時も、変に行間を読まないでコミュニケーションできるようになります。

身振り手振り交えながら話す石井さん

オープンチャンネル活性化のカギを握るのは新入社員

ポイント

  • DM利用率は2割が理想。基本的にはオープンチャンネルでやり取りをし、個人的な相談やセンシティブな話題だけDMを使うようにする
  • 新入社員こそ、オープンチャンネルを活用することで効率的に知見を集められる

ーーDMとオープンチャンネルの活用について、DMの活用を禁止している企業もあると聞きます。DMを禁止することは組織運営に効果的なのでしょうか。

組織ごとに考えがあるので一概には言えませんが、僕は8割ぐらいはオープンなチャンネルで、2割くらいはDMがあっても良いのではと思います。

みんなには聞かれたくないし共有する必要はないけれど、上司や同僚に相談したい話題もありますよね。そういった場面ではDMのほうが安心してやりとりできるでしょう。それに、普段はオープンにコミュニケーションを取れている会社の方がDMを使うメリットって上がると思うんですね。

普段はオープンなのに、DMで連絡が来たら「深刻な相談なのか」とか「急ぎなのか」とか、優先順位を高くして打ち返せます。なので、基本的にはオープンチャンネルでやり取りをするけれど、どうしても必要な時はDMを使うと濃淡をつけた使い分けがいいのではないでしょうか。

また、小さな話ではありますが、「これはDMで送った方がいいのか?オープンに送った方がいいのか?」と考えるのも、組織のメンバーにとっては判断の練習になります。AIの活用が進んでいく中でも、何かを判断して責任をとることが人間に残されていく仕事だと考えているので、そういった意味でも判断をする機会を奪いすぎないほうが良いかと思います。

ーー仰る通り、DMが使えることによって心理的安全性が保たれる側面もありますよね。では、具体的に、オープンチャンネルでやり取りすべき情報はどうやって見分けるのがいいのでしょうか?

判断の軸は、仕事をうまく進める上で、みんなに共有した方が良い情報かどうかです。例えば、何かを決めるときの経緯や、後々全体に共有する予定のことは、初めからチームや会社のメンバーに広く共有しておいた方が、仕事がスムーズになります。

笑顔で話す石井さん

ーー特に新卒の方や、新入社員の方だと、「みんなに共有したほうがいいのかどうか」の判断が難しそうだなと感じました。

実は新人さんほどオープンチャンネルで投稿していくのが、おすすめなんです。新人さんは「こんなことも知らないのか」と言われにくいポジションです。だからこそ、オープンなチャンネルでたくさん質問したり、気づいたことを投稿すれば、社内からぞくぞくと知見やコメントが集まってくるのではないでしょうか。

これは、組織全体のオープンなコミュニケーションを活性化させるカギにもなります。なので新人さんほどオープンなところで社内の人に助けを求め、周りの人もオープンな場で答えていくのがいいと思います。新人さんが1人で質問しにくければ「新人3人で考えたことなんですけど……」と仲間を巻き込むのもいいですね。

組織でできるオープンなチャット文化を作る仕組み

ポイント

  • すぐに返信できなくてもスタンプや「いいね」の反応を返すだけでも、オープンチャンネルに投稿しやすくなる
  • 失敗の報告は、投稿されること自体が何より大事。「報告ありがとう」の反応を返して、投稿しやすい空気を作る

ーー組織として、オープンチャンネルでのやり取りを活性化するためにできる仕組みなどはありますか?

大事なのは、「反応」と「返信」を分けることです。例えば30ページの提案書の確認を依頼されても、きちんと読み込んで「返信」しようとすると時間がかかります。でも、とりあえずいいねボタンを押すとか、「企画書ありがとう!後で確認します」とメッセージするだけならすぐにできますよね。これが「反応」です。

それだけでも、何も反応すら無いのと比べたら、みんなが投稿しやすくなったり話しかけやすくなります。反応しやすいように便利なスタンプなどを用意しておくのもおすすめです。

ーーそうは言っても、失敗してしまったことやわからないことをオープンチャンネルに投稿するのは勇気が要りそうです。

そうですよね。本当は、まず「失敗した」という報告が上がることが一番重要なんです。けれど、報告したところでひどく怒られたりすると、「言ってよかった」という感覚にならないので失敗や悩みを報告しにくくなります。

だから、たとえミスや失敗であっても報告をしてくれた人に対し、「報告ありがとう」と反応を返すのが大切かなと思います。普段から「小さなミスやトラブルでも、相談・報告できるのが大事」だと周知しておき、実際に報告が上がったら「素早く報告してくれてありがとう!」と、ミスや失敗を叱責する前に、まずは報告を受け止めるのです。

僕たちの会社では、「それはちょうどよかった」というスタンプを用意して、失敗の報告や質問にはそのスタンプでまず反応します。

ZENTech社のオープンチャットでよく使われているという「それはちょうどよかった」スタンプの画像
ZENTech社のオープンチャットでよく使われている「それはちょうどよかった」スタンプ。ミスや失敗の報告をしてくれた人に対して、「まずはありがとう」と反応を返すことで、投稿しやすい空気を作っている

ーーメンバーからDMが頻繁に来てしまうときは、どのように対応するのが良いのでしょうか?

何でもDMで連絡してしまうような相手に対しては、「このやり取りは他のチームのメンバーにも見えた方がわかってもらえそう。オープンなチャンネルでやろう」と誘導してあげるのがいいと思います。特に先輩や上司にあたる方が、時折指摘してあげるとだんだん慣れていくのではないでしょうか。言われた側も、「これってオープンチャンネルに書いていいんだ」と安心感を得られると思います。

お叱りメッセージはDMよりも電話で伝える

ポイント

  • ネガティブフィードバックは、テキストよりも電話やビデオミーティングがおすすめ
  • リアルタイム/非リアルタイムのコミュニケーションをの使い分けが、仕事を円滑に進めるためのポイント

ーーDMとオープンチャンネルの使い分けの中で、ネガティブフィードバックの扱いについて悩む人も多いように思います。人前で、ネガティブなフィードバックはしない方がいいという話題はよく上がりますが、これはチャットでも同じでしょうか。

確かに今の時代は、叱るにも褒めるにもあまり人前でフィードバックするのは避けたほうが良いかと思います。でも、叱るときや褒めるときはDMが正解というわけではありません。チーム全員の稼働を正確に把握できていて、誰が見てもがんばっている人を褒めるのであれば、チームのチャンネルで褒めても問題ないですよね。その時々の状況で個別に対応するのが大事だと思います。

また、ネガティブなフィードバックからチームに知見を貯めるという観点では、個人へのフィードバックとチームへの共有は2段階に分けた方が良いと思います。僕の場合は、オンライン商談に同席した人へフィードバックする時は、商談直後に電話やビデオミーティングをつないで口頭でフィードバックをします。

そのあと、チームへは個人への評価とは切り離して、「商談するときに気を付けるポイント」のような形で、ドキュメントなどにまとめて知見として共有します。みんなの前で怒ることそのものに教育効果があるわけではないので、チームにはきちんと知見にして還元したいですね。

ーーチャットコミュニケーションだけではなく、電話やビデオミーティングなどと組み合わせるのも効果的なのですね。

そうですね。僕は耳の痛いことを言わなければいけない場面では、割と電話を使うことが多いです。その方が、こちらからは分からない背景や、相手の考えを聞くことができますよね。一方的にテキストで、「あなたのここが悪い。なぜならAで、Bで……」と書かれると、詰められているように感じると思います。なので、お叱りメッセージを送るときはDMよりは、リアルタイムコミュニケーションの方がいいかもしれないですね。

ーーオープンチャンネルかDMかという観点とは別に、テキストか口頭かの使い分けも重要ということでしょうか。

テキスト/口頭というよりは、リアルタイム/非リアルタイムの使い分けが大事かなと思います。ビジネスチャットやメールを含む、テキストツールはそもそも非リアルタイム型のツールです。音声や対面で会話していたら2分も反応がなかったら無視されていると感じるけれど、チャットなら15分とか人によっては半日くらい返ってこなくても別に問題ないですよね。

もし、重い内容だったり、数秒単位で細かくチャットをやり取りしているような状況だったら、リアルタイムで会話できるツールに切り替えた方がお互いに楽ですよね。そういった観点で、リアルタイム/非リアルタイムのツールを使い分けできると良いのではないでしょうか。

リアルタイム/非リアルタイムでツールを使い分けをまとめた図。今回のメインテーマであったDMとオープンチャットの比較でいうと、DMは「センシティブな情報や個人的な相談・半日程度で確認してほしい・やり取りログを残したい」場面に向いており、オープンチャットは「チーム全体に共有したい・複雑な情報をまとめて共有したい・半日程度で確認してほしい・やり取りのログを残したい」といった場面に向いていることがわかる。
「リアルタイム/非リアルタイム」でツールを使い分けをまとめた図

まとめ

オープンチャンネルの活性化も、リーダーやマネージャー層だけの努力では上手くいきません。組織に関わるメンバー1人1人が、いいねボタンやスタンプを押したり、メンバーの投稿にお礼を言ったり、小さな反応の積み重ねが、オープンなコミュニケーションを下支えすることがわかりました。

そして、社内チャットをはじめとする日々のやり取りは、チームワークの質にも直結します。石井さんは、チーム作りは「全員協力でやること」が大切だと語ります。スキル要らずで誰でもできる、組織のチームワーク強化の一歩として、まずは「反応を返す」ところから、オープンチャンネルの活性化に取り組んでみるのはどうでしょうか?

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