オンラインだからこそ「新たなつながり」をつくりやすい──年間206組もの関係を生み出す、サイボウズの社内コミュニケーション施策とは
コラム
コロナ禍によるテレワークの広がりにともない、組織コミュニケーションの改善が急務となっている現在。とくに部門間・事業所間での連携のとりづらさは、コロナ禍前より多くの企業で課題となっていました。
そんななかサイボウズでは、昨年206組もの新たな関係が生まれているそう。さらにコミュニケーション促進チームのリーダー・古谷ちひろは、「むしろオンラインのほうが、社内の関係づくりに向いているかもしれない」と話します。それは一体、どういうことなのでしょうか?
今回はコミュニケーション促進チームの事例をもとに、部署間・事業所間コミュニケーションの課題解決の方法について、ご紹介していきます。
目次
自立して働くには「依存先を増やすこと」が大切
――はじめに、コミュニケーション促進チームは、どんなことをしているチームなのでしょうか?
その名の通り、社内のコミュニケーションを活性化する施策の企画・立案を担っているチームです。2019年の人事編成により発足し、現在は社内に「0→1の新たなつながり」をつくることをミッション(使命)に活動しています。
――社内コミュニケーションの課題というと、さまざまな側面があるかと思いますが、「0→1の新たなつながりを増やす」という目的に絞った背景などありますか?
このミッションの基盤には、サイボウズが掲げる以下の4つの文化があります。
その1つに含まれるのが「自立(と議論)」で、わたしたちは自立を「他人の力を借りてでも、理想を達成すること」と定義しました。というのも、社内に相談・依頼し合える人がたくさんいれば、業務の効率向上や問題の解消につながり、理想の達成へと向かえるからです。
そこでサイボウズの理念達成のためにわたしたちができるのは、新たなつながりを増やすことだと考えました。1→10と知り合いとの仲を深めるよりも、新しく知り合いを増やし、相談・依頼できる依存先がたくさんある状態をつくりたいと考えたのです。
――なるほど。結構大胆に目的を絞り込みましたね。
そうですね。社内コミュニケーションっていろんな施策が考えられるため、漠然とした課題設定のまま進んでしまいがちなんです。だからこそ、目的を絞って、ミッションを言語化した効果は大きかったと思います。
コミュニケーション促進チームが発足した当初の役割は、それまで各チームがバラバラに実施していた社内イベントを、一手に引き受けることでした。とはいえ、メンバーはたったの5人で、全員が別チームを兼務していました。だから少ないリソースのなか、「いろんな部署の社員同士でコミュニケーションしてほしい」という想いで、必死に目の前のイベントを動かしていたんです。
でも、その結果を評価する基準があいまいだったので、正確な効果検証ができなくて。そのため、「自分たちの仕事が本当にサイボウズの社内コミュニケーションにつながっているのか」が常にあいまいで、チームとしてもつらい状態が続きました。
そこで、「サイボウズの理念達成のために、わたしたちができることって何だろう?」と改めて徹底的に話し合うことにしました。その結果、辿り着いたのが、0→1の新たなつながりをつくること。そう決めたことで、判断基準が「見ず知らずの人たちと知り合いになれるか」と明確になり、効果検証できるようになりました。
加えて、理念から逆算したミッションを決めたことで、「チームの活動は必ず理念につながっているから無駄ではない」と安心しながら前へと進めるチームに生まれ変わったのです。
イベント単発の出会いで終わらせない。緩やかに関係性を継続できる「分報」「実況スレ」の仕組み
――「0→1の新たなつながり」をつくるため、実際どんな取り組みをしているのでしょうか?
大きく分けると「参加者がリアルタイムで集まるイベント」「参加者が好きなタイミングでかかわれるイベント」の2種類を実施しています。
まず、リアルタイム型のイベントから説明すると
- 『お仕事どうでしょう』
- 『自己紹介イベント』
の2つの取り組みがあります。
『お仕事どうでしょう』は毎月30分間、オンラインで開催する全社横断の雑談イベントです。もともと、所属チーム以外の人と交流するイベントを行った際、「テーマが自由だとなかなか話しにくい」という声があったんですね。なので、このイベントでは話すトピックを「昨日取り組んだ業務」と結構絞り込んでみました。
また、具体的な業務の話をテーマとすることで、他部署の仕事内容をより理解しやすくなるのでは、という狙いもあります。
「0→1のつながりを増やす」という目的に対しては、参加者をZoomのブレイクアウトルーム機能(参加者を少人数のグループに分けてミーティングを行える機能)を活用して3〜4人のランダムなグループに分けることで、所属チーム以外の社員と話せるようにしました。
こうした工夫の甲斐もあって、「まだ会話を続けたくて時間が足りなかった」といった感想をもらうほど盛り上がったんです。テレワーク中でコミュニケーション不足の人も多いからだと思いますが、毎回30〜40人が参加してくれています。
――とはいえ、イベントだとその場限りの関係性になることが多いのでは?
サイボウズには「分報(ふんほう)」という文化があり、それが参加者どうしのつながりを継続することに役立っているように思います。分報とは社内版Twitterのようなもので、仕事に限らず好きなことや趣味など、みんなが自由に書く取り組みです。
コミュニケーション促進チームでは、この分報を通じてイベント後もつながることを推奨しています。「イベントでの出会いって単発で終わりがち」というのはよくある悩みですが、サイボウズの場合はこうした仕組みがあるからこそ、継続的に関係を持ち続けられています。
――イベント後もつながりが生まれやすくなるようにしているんですね! もうひとつのリアルタイム型イベントである『自己紹介イベント』は、どんなものなのでしょうか?
毎月30分間、入社したてのメンバーが全社に向けて、オンラインで自己紹介するイベントです。テレワークでも、一人ひとりの人柄が伝わり、社内のつながりが増えるきっかけになればと思い、企画しました。こちらのイベントは、新しいメンバーに各自1枚の簡単なスライドを用意してもらい、1人5分程度で順番に発表していく形式をとっています。
また、こちらの自己紹介イベントでは「実況スレッド」も活用しています。実況とは、イベントなどの開催時、その内容についての感想や疑問点などをひとつの場所に自由に書き込んでいくことです。
たとえば、入社したての人が趣味について話していると、参加者が「わたしも同じ趣味です」と書き込む。そうすれば、イベント終了後もテキスト上の会話が続き、新たなつながりが生まれやすくなる効果があります。
フルリモート入社でもっとも困るのは、社内での人脈構築人間関係がどうしても希薄になりがちなことなんです。だから、新しいメンバーが人間関係を築きやすくなるよう、コミュニケーション促進チームとして、この取り組みにも力を入れています。
いつでも気軽に話せるスペースで、共通の趣味・興味を持つ人を見つける
――なるほど。もうひとつ挙げられていた「参加者が好きなタイミングで関われるイベント」とは何でしょうか?
業務以外の話を気軽に書き込める場所をつくることで、テレワーク中に不足しがちな「雑談」をオンライン上で補う取り組みです。
そもそもイベントは、たとえ業務時間内に実施したとしても、個々の業務負荷や予定の都合で参加しづらいときもあります。これがテレワークになると、さらに子育てや介護などプライベートの予定にも影響を受けるんです。そのため、その時間・場所にいられない人でも自分のペースでかかわれる場を増やすことにしました。
わたしたちが管理・運営するのは「サイボウズライブラリー」「サイボウズシアター」「サイボウズミュージック」の3つ。kintone上に趣味や興味についてのスペースをつくり、好きなときに参加者が書き込めるように設定しました。同じ興味を持つ人が集まるので、参加者同士で結びつきやすいんです。
――特定の人の書き込みが多くなり、知り合い同士の仲が深まる場所になりやすいのでは、とも思ったのですが。
その懸念もありましたが、実際は不特定多数の書き込みがありました。目的をもって運用されるオフィシャルな場所なので、はじめて書く人でも安心して参加できるのでしょう。お知らせ欄では、「映画について書くことで、新しい知り合いをつくってください」とスペースの目的を発信しています。それを理解した参加者が「新たなつながりをつくろう」と書いてくれるので、運営側としてはありがたいです。
1年間で206組の関係づくり。間接的なつながりが業務に役立つことも
――こうした取り組みの結果、具体的にどんな成果がありましたか?
2021年3月〜2022年3月に実施したリアルタイム型イベントでは、これまでつながりがなかったメンバー同士が通知し合う(相互にメンションする)関係が、新たに206組生まれました。
このように新たなつながりを定量化したことで、「今回の改善点をクリアするために、次回のイベントでは◯◯しよう」とネクストアクションにつなげやすくもなりましたね。
わたしたちがしているのは、あくまで交流の場を設けること。実際につながる行動をしたのは参加者のみんなです。交流の場が生かされているのが数値でわかるたび、わたしたち運営の励みになっています……!
――実際、1対1のつながりが増えたことで、社内に相談・依頼がしやすい雰囲気は生まれましたか?
はい。それぞれのイベントで、みんなが相談先を見つけているのは感じています。
また、1対1の直接的なつながりだけでなく、間接的なつながりも生まれています。たとえば、「イベントで知り合ったAさんに相談したら、BさんやCさんの事例を聞けて、仕事の悩みが解決した!」ということがよく起きているようです。
こんなふうに知り合いを介して解決できる問題も多いので、最初に相談できる人の役割はとても大きいんです。
「新たなつながりを生む施策」と「オンライン」は相性がいい
――コロナ禍でリアルイベントができなくなりましたが、オンラインでの施策だと不都合もあったのではないでしょうか?
いえ、むしろ逆で、施策を打つなかで「オンラインは新たなつながりを生む施策と相性がいい」と気づいて。
その要因のひとつとして、空間の制限がないことがあります。これまでは、部屋の広さに応じて参加者を制限する必要がありました。一方、オンラインであれば人数上限はありませんし、場所を押さえる必要もないんです。
もうひとつ大きいのは、拠点間の壁がないこと。リアルイベントだと、どうしても同じ場所にいるメンバーが集まりやすいので、東京と松山など拠点の異なるメンバー同士のつながりができにくかったんです。でも、オンラインなら拠点間の壁が一気に取り払われるので、これまでになかった新たなつながりが生まれやすくなりました。
誰もが参加しやすいオンラインイベントにする2つの工夫
――「オンラインは0→1の関係づくりに向いていた」とのことですが、オンラインイベントならではの工夫は何かありますか?
2つあります。1つは、いつでも、どこからでも参加しやすいからこそ、全社に向けたイベントは「特定の人だけへのアプローチ」とならないようにすることです。
たとえば、わたしたちは「業務時間中のイベント」というメッセージを出した上で、参加を促しています。一般的に、コミュニケーションの価値って評価しづらいものだと思うんです。参加してすぐに「自分の業務に対してポジティブな効果がある」と保証できるものではありませんから。
だからこそ、主催者側が「これは業務の一環ですよ」と、ある種の免罪符を提供することが大切なのだと思います。イベントへの参加を言い出しづらい雰囲気があったとしても、「業務の一環」という認識が広がっていれば、自信をもって参加しやすくなりますから。
ーーもしも周囲から「イベントに参加する時間があるなら、もっと仕事すべきでは?」と聞かれても、「これも仕事の一環です」と言えるわけですね。
はい。さらに、特定の時間に作業が入っている人が参加できないことを防ぐために、開催日時を毎回ずらし、いろいろな人が参加できるようにもしています。こんなふうに全員に対して平等に機会があれば、みんなの負担が減り、会社としても費用対効果が高くなるんです。
――たしかに。いつも同じメンバーばかりがイベントに参加していたら、0→1のつながりは生まれにくいですよね。もうひとつは、どんな工夫をしているのでしょうか?
カジュアルな内容で交流できるようにすることです。業務の話題は気軽に書くのが難しく、参加者が限られてしまうはず。そこで「ざつだんスペース」では、気軽に書けそうなカジュアルなテーマを選び、交流しやすくしました。
たとえば、「サイボウズライブラリー」に話してみたい人がいて「◯◯を読みました」と書いていたら、「その感想を教えてください!」と気軽に話しかけやすいと思います。
テキストベースでのやり取りなので、簡単な交流にはなるかもしれません。それでも、「会話を直接したこと」がテレワーク中は重要なのだと思います。1回でもテキストで会話していれば、業務中に話しかけやすくなりますよね。
ハイブリッドワーク時代には、情報の裏にいる「人」を知れる環境が必要
――なるほど。たしかに一度でも「会話」を直接した経験があると、心理的な距離がグッと縮まりますよね。
そうですね。現時点でコロナ禍の終息は不透明であり、ほとんどのサイボウズメンバーが基本は在宅で、たまにオフィスに出社する「ハイブリッドワーク」をしているんです。このような状況が長期化し、「あの人が何をしているかわからない」などとメンバーや部署の動きが物理的に見えなくなると、周りへの関心が薄れていくかもしれません。
その結果、「自分たちのチームの仕事さえ、しっかりと回ってさえいればいい」というサイロ化(おたがいがおたがいに無関心になっていき、組織がバラバラになっていく状態)が起こる可能性があります。そうなると、情報が自分のチーム内に閉じてしまって、組織全体での効率が落ちていくことにもつながります。
こうした事態を防ぐためには、"示された情報の裏に、生身の人間がいること”を実感するのが大切です。同じ情報を目にするにしても、ただのテキストとして受け取るのではなく、「〇〇さんのやっている△△だ!」といった捉え方ができるようになると、自分ごととしても捉えやすくなるからです。
情報の裏にいる人が見えにくいハイブリッドワークだからこそ、こうした「人」を知る環境や仕組みがますます重要になっています。
リアルとオンラインの強みを織り交ぜながら、チームワークあふれる組織にしていきたい
――最後に、オフィスワークとテレワークを使い分けるハイブリッドワーク時代において、コミュニケーション促進チームとして今後どんな展望を考えていますか?
オフィスでのリアルなコミュニケーションを促し、テレワークで量産した新たなつながりを深めていくことです。新たなつながりづくりにフォーカスしながら、「部活動などの社内交流には補助金を出す」などの福利厚生制度も継続していく。そうすれば、知り合いと仲を深めたい人同士が交流しやすくなるでしょう。
サイボウズが目指す組織のあり方は、「石垣のようなチーム」です。石垣を構成する石は、それぞれ大きさや形が異なり、大きい丸いものもあれば、ちっちゃくて尖ったものもありますよね。
それらを無理矢理同じ形にしてブロックのように扱うのではなく、大きさや形が違うバラバラのものをうまく生かしながら組み合わせていけば、より強い石垣ができるはず。そんなふうに一人ひとりの個性をうまく組み合わせることで、強い組織をつくれるだろうと考えているんです。
コミュニケーション促進チームが行っているのは、いわば、より強い石垣をつくるためのきっかけづくり。サイボウズのみんな一人ひとりが自分の個性を生かしながら働けることの一助になれば、これ以上うれしいことはありません。
企画:今井豪人(サイボウズ) 執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)