こんなに恵まれた環境で、本当に成長できるのか?──サイボウズZ世代社員に「働きやすい会社」で働くホンネを聞いてみた

コラム

「100人100通りの働き方」を掲げ、働き方改革に力を入れているサイボウズ。コロナ禍当初の2020年2月から「全社原則テレワーク」を開始するなど、働き方をアップデートし続けています。

しかし最近、世間の働きやすい会社は「“ゆるい会社”で成長ができない」と、かえって若手社員が離脱しているのだとか。もしかしたらサイボウズは若手が敬遠する、単なる“ゆるい会社”になっているのかも……?

そこで今回はコロナ禍以降、フルリモート研修を受けた22年入社組3人の本音を、アラフィフ世代のベテランマネージャーが聞きました。サイボウズのリアルな現状と「働きやすい会社」の本質にまつわる議論をお届けします。

インタビュイー4名の集合写真。リモート参加となった糸数が映ったモニターを囲むように集まっている。
左:小原、中央:松川、中央ディスプレイ:糸数、右:岩川
  • 糸数ゆうな(いとかず・ゆうな)【カスタマーサクセス】

カスタマー本部でkintone既存顧客の活用支援を担当。入社当初は東京勤務を予定していたが、現在は地元・沖縄でフルテレワーク。就活の軸は「自由度の高さ」「自分が成長できる」など。

  • 岩川翔太(いわかわ・しょうた)【システムコンサルタント】

システムコンサルティング本部所属。新人研修時よりワーケーションを実施し、現在は東京と福岡の2拠点生活。出社ペースは週1-2回。就職活動の軸は「多様な業種の人と関わりたい」「チーム主義」など。

  • 小原拓(こはら・たく)【営業】

営業本部で法人営業を担当。クライアント折衝の9割はオンライン。出社はクライアント企業への往訪含め週2回。就職活動の軸は、「お客さまから求められる強い製品」「チーム主義」など。

  • 松川隆(まつかわ・たかし)

チームワーク総研シニアコンサルタント。大手銀行、広告代理店を経て、2012年にサイボウズ入社。「昭和気質」「体育会気質」で、サイボウズ内で数々の炎上を巻き起こす。その赤裸々な体験談が講演・研修で人気。出社ペースは月1回。

働きやすい会社は“ゆるい”のか? 新卒世代の本音は?

松川:最近、「働きやすい会社」が「ゆるくて成長できない会社」として、若手社員が敬遠するケースがあるらしいんだよね。みんなは、その辺はどう感じている? サイボウズは“ゆるい”?

小原:確かに「こんなに恵まれた環境で、本当に成長できるのか?」と、不安に感じることはあります。数年前までサイボウズ営業部の新人研修では、飛び込み営業があったと聞いたので、「自分たちは、ものすごくラクをしているんじゃないか」って。

岩川:それに、サイボウズの場合、僕らが何か意見を言っても、先輩たちがしっかり受け止めてくれるんですよね。

これまで怒られたり注意されたりしながら学んできたからこそ、そうした肯定的な反応に戸惑いもあって。「本当にこのやり方でいいのか、こんなことを言っていいのか?」とかえって不安になるときもあります。だから、先輩には厳しめのフィードバックをお願いするようにしています。

身振り手振り交えて話す岩川。
システムコンサルティング本部所属の岩川。東京と福岡で2拠点生活を実施している

松川:なるほど。実際、リクルートワークス研究所による調査(※)では、新入社員のうち「職場の上司・先輩から叱責された経験がない」と回答した割合は30.4%もいて。さらに言えば、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」は45.6%と出ているんだよね。

これは多くの企業で厳しさがなくなっていて、「本当に自分が成長できているか」と不安になる新人が増えていることを示しているのかも。

※「大手企業における若手育成状況調査報告書」(2022年)

糸数:そんなデータが! でも、わたしはサイボウズがゆるいって、一回も感じたことがなくて。たしかに働きやすいし、厳しく怒られたり責められたりしないけれど、求められている仕事の水準自体はものすごく高いような気がするんです。

自由度が高い分、自分で考えて働き方を選択しなきゃいけないし。「働き方が自由」といっても、仕事の成果が落ちるような働き方なら、給与や役割などの条件を含めて、マネジャーとしっかり相談する必要があるし。

小原:あぁ、確かに何をもって“ゆるい”か、だよね。働き方は “ゆるい”かもしれないけど、求められる成果が“ゆるい”ってことはない。

サイボウズでは、「スーツを着て先輩より30分早く出社して、誰よりも遅くまで残る」みたいな厳しさはまったくない。でも、「自分で考えて行動し続ける」は求められるので、期待される成果と成長は厳しいと思う。 

松川:うんうん。実際に、“きつい”働き方が“ゆるい”働き方より良い成果をあげているとは限らないからね。「働きやすさ」と「成果」は分けて考える必要があるね。

オンライン上での“つながり力”は、若い世代ほど増している?

松川:サイボウズは、まだ若手が避けるような “ゆるい”会社になっていないとわかって、一安心だよ。でも、若手層が日々どんなことを感じて働いているかを理解しておかないと、真に働きやすい環境はつくれないと思うのよね。特にコロナ前後で、生活様式や価値観は大きく変わったし。

それこそみんな、新人研修の最初1ヶ月間はテレワークだったでしょ? いまも基本テレワークで仕事しているけど、どう?  特に糸数さんはフルリモートだし、孤独とか感じてない?

糸数:ぜんぜん感じないです。というのも、「分報」を通じてオンラインでも活発な雑談ができる風土があるためです。コミュニケーションツールもたくさんあって、気分や状況に応じて選べるので、助かっています。

糸数の分報の様子。業務に関する書き込みから、趣味のことまで幅広く、自由につぶやいている
とある日の糸数の「分報」の様子。業務に関する書き込みから趣味のことまで幅広く自由につぶやいている
kintoneで分報を一覧表示した様子。それぞれの書き込みがタイル状に表示されている。
分報はkintoneを活用した社内版Twitterのようなもので、個々が仕事や趣味、気になっていることなど自由に書く取り組み。一覧表示させると、出社したときと同じような「周囲のざわざわ」を視覚的に感じられる

岩川:分報いいよね。仕事中に「先輩にミーティングの時間を取ってもらうほどじゃないけど、ちょっと聞きたいこと」をつぶやいたら、すぐに誰かが解決策を教えてくれるのはすごく助かる。

何気ないつぶやきに対しても、「いいね」を押してくれる先輩や同僚の存在で、孤独感は和らいでいると思う。

松川:分報は昔からあるけど、コロナ禍で全社原則テレワークになってから、使いだす人が一気に増えたんだよね。当初は、あまりよく思っていない社員も少なくなかった。

糸数:え、そうなんですか!?

モニター越しに話す糸数と集中して聞く松川、小原、岩川の様子。
カスタマー本部でkintone活用支援を担当する糸数。この日は沖縄からリモートでの参加となった

松川:そもそも、昔は「仕事中の雑談」を快く思っていない人も多かったのよ。「雑談したいなら、タバコ休憩か酒の席」みたいな昭和気質が、サイボウズにも少し前まであったし。それが、いまではオンラインで雑談ができる環境をわざわざつくっている。本当に変わったと思う。

しかも、年次が若くなるごとに、やっぱりSNS慣れしているのか、仕事でもオンライン上で人とつながるのが劇的にうまいんだよね。知らない人でもがんがん絡んでいく人、多いでしょ?

小原:その印象はありますね。僕はSNSでもあまり発信はしないタイプで、分報もしていないのですが、糸数は特にすごい……!

糸数:めっちゃ絡みますね(笑)。振り返ってみると、わたしは小学生の頃からアメーバピグ(※サイバーエージェントが運営する仮想空間アバターコミュニティサービス)でも、知らない人と交流していました。オンラインで人と話すことに抵抗が少ないんだと思います。

「分報」を通じて話したことがある人は、普段のつぶやきの様子から既におたがいのことをある程度知っている状態なんですよね。だからリアルで会っても、はじめましての感覚もなく、仕事の相談もしやすい。

松川:すごいよね。今後、フルリモートやハイブリッド型の組織が増えれば、オンラインだけで人間関係をつくることも大事な能力になってくるかもしれない。僕、オンライン上だと知らない人に絡むことに躊躇して、人と関係を深めるのは対面だけになりがちだから、ほんと見習わないとって思う。

どんなに良い制度やツールがあっても、実際に使える「風土」がないと意味がない

松川:サイボウズは「100人100通りの働き方」を掲げて、働く場所・時間などを自由に選べるようにしているよね。でも、社会人なりたての段階で、自分で働き方を選ぶことに難しさは感じなかった?

サイボウズ社員の働き方の例を示したサンプル画像。
2018年から、一人ひとりが自身の働き方を自由に記述する「働き方宣言制度」を導入。残業や出張、休日出勤などの希望も記載できる

小原:たしかに、最初は「こんな働き方を希望しても大丈夫なんだろうか?」「さすがに社会人としてダメかな?」と少しドキドキしました。でもサイボウズでは、先輩たちが制度やツールを活用しまくっていて。新人でも実際にちゃんと使えるんだという安心があり、それが働きやすさに直結していると思います。

松川:うんうん。どんなに良い制度やツールがあっても、実際に使える風土や事例(ロールモデル)がないと、特に新人は遠慮して何も使えなくなるからね。

講演や研修をしていると、よく「働き方を自由にしたら、社員はサボるんじゃないか」と聞かれるけど、サイボウズでは自分の働き方を隠せない状況になっていて。僕のスケジュールも分報も全社に公開されているから、気軽にサボれる気なんてまったくしないのよ(笑)。

小原:それは思います! みんなに見えているからこそ、自由な環境であっても、自立して働かざるを得なくなりますよね。

松川:そうそう。だから、テレワークやフレックスタイムといった「制度」や、チャットやオンライン会議などの「ツール」だけじゃなく、それらをしっかり活用していく「風土」をともに整えていくことが大事で。その3つが揃えば自立して働けるので、たとえ新人であっても働き方を「自由に」選べるようになるのよね。

「制度」「ツール」「風土」の三要素を示した画像。
サイボウズは、ワークスタイル変革に必要な3つの要因として「制度」「ツール」「風土」を挙げている

岩川:新人でもやるべきことをしっかりやっていれば、本当にわがままも聞いてもらえますよね。

僕、出身が福岡でパートナーも福岡にいるので、最初は遠距離恋愛を覚悟していました。でも、業務に支障がなければ、福岡でテレワークをしても、旅行先でワーケーションをしても、何も言われない。だから、いま私生活がすごく充実しています。

新人研修期間にワーケーションを実施した岩川の書き込み。離れていてもしっかり状況を共有できるよう、分報で1日の予定を共有する工夫をしている
新人研修期間にワーケーションを実施した岩川の書き込み。離れていても周囲に状況共有できるよう、自分の分報にその日のスケジュールを書き込む工夫をしている

松川:いいね、これからもぜひどんどんわがままを言ってください。個人のわがままは、「楽しく働くためのヒント」であり、「社会を変えるかもしれないアイデア」だから。誰も、わがままを言えないと、組織が変革するきっかけを失っちゃうからね。

サイボウズが変革できるのは、“ちゃんと”炎上するから

小原:「組織が変革する」といえば、僕、松川さんの記事を読んで、社内で「ちゃんと炎上する」って、ものすごいことだと思ったんです。サイボウズが変革できる根源が、そこにあるような気がしていて。

関連リンク:「よかれ」と思った発言がサイボウズで社内炎上 若手社員のフィードバックで気づいた、アラフィフ社員の学び - ログミーBiz

松川:おお、聞かせて聞かせて。 

小原:ご本人を前に言うのは大変はばかられるんですが……。kintone上で「一般的に古いとされている価値観」「一定の型を押し付けるような言動」が発信されると、誰かが必ず異を唱えて議論が起こりますよね。すると多様な意見が集まり、それぞれの意見についた「いいね」の数で、どのくらい共感されているかも分かる。

これって「コミュニケーションをオープンにするツール」「違和感があるときには、ちゃんと発言する風土」がセットになっているからこそ、ですよね。

真剣な表情で話す小原。
営業本部で法人営業を担当する小原。クライアントもオンライン会議が主流のため、往訪の機会は少ないのだそう

松川:そうね、確かに“ちゃんと”炎上するのに必要な要素だね(苦笑)。

小原:たぶん、ほかの企業なら「今日、上司にこんなこと言われたんだけど」みたいな同僚内の愚痴で終わるようなことも、サイボウズは徹底的に議論しますよね。

それができるのは、新人研修で“サイボウズ流・コミュニケーション手法”を教わるからだと思うんです。「もやもや共有ワークショップ」や「問題解決メソッド」を通じて、自分の意見を言語化するフレームワークや、相手の人間性を否定せずに建設的な議論をするためのノウハウを教わる

みんな同じ目線で議論ができるようにすることで、新人でも意見を言いやすい、「誰も取り残さない、変化に積極的な風土」がつくられていくんだなって。

もやもや共有アプリのkintoneのスクリーンショット。説明欄にアプリの目的や運用上の注意が書かれている。 もやもや共有アプリのkintoneのスクリーンショット。説明欄にアプリの目的や運用上の注意が書かれている。
新人研修では、「もやもや共有アプリ」を通じて、「もやもや」を言語化し共有する大切さを学ぶ

若手がいきいき働ける会社では、実は「おじさん世代」の心理的安全性がない?

糸数:最初に「サイボウズは“ゆるい”か?」という話題についてわたしたち新人の本音を聞いていただきましたが、逆に松川さんの本音も聞いてみたいです! 松川さんはいまのサイボウズの働き方は“ゆるい”と感じますか?

松川:まあ直感的には思っちゃうことあるよね(笑)。なんなら入社当時から思ってた。当時は「“ゆるい”企業は成長しない」って考えてたから、「この会社、大丈夫か?」と不安だったよ(笑)。

でも、サイボウズが「働きやすさ」に力を入れれば入れるほど、業績も右肩上がりに伸びていくでしょ。社員も、みんなやる気満々だし。極めつけに、自分の発言がたびたび社内で炎上するし、嫌でも「自分の“常識”は、どうも正しくないらしい」って思い知らされる。

最近では思うことがあっても、「また炎上案件か……?」とどうしても頭によぎっちゃって、発言を躊躇する機会も増えたよね。

身振り手振り交え、話に熱が入る松川。
入社依頼、前職とのギャップから社内で数々の炎上を巻き起こした経験をもつ松川

糸数:サイボウズで「意見を言いづらい」のは、大きな問題な気がしますね……。

松川:うーん、どうだろうね。ただ昔ならすぐに注意したようなことも、よくよく考えると「それも多様性のひとつ」と思うことも多いのよ。

それに、もう「上が下に何かを教える」っていう時代ではないと思うんだよね。「化石」化しつつある知識も多いから、今は「若い子たちにデジタルツールのおもしろい使い方を教えてもらおう」というふうに変わってきたよね。

小原:なるほど。でも、今日お話を聞いていて、僕は改めてサイボウズの「変革のストーリー」を知っておきたいって思いました。営業として、お客様目線の提案ができるように、「“テレワークの悩み”をサイボウズはどう乗り越えてきたか?」を、ちゃんと知っておきたいなって。

松川:え、昔の話していいの? いつも、「若者に偉そうに昔話と武勇伝を語るおじさんはダサい」って話をしているのに(笑)

でも、サイボウズの制度や文化にまつわる変革のストーリーを、新人に伝えていくのは僕ら世代の責任だなって思った。やっぱり「なぜこういう制度を作ったのか」「どうしてこの文化は成り立ったのか」といった背景が共有されていないと、単に「ゆるく働ける会社」と誤解されて、正しく機能しなくなる可能性もあるからね。

小原:僕たちは年金にも期待できない世代だし、先がまったく見えない時代を生きていかなきゃいけない。だからこそ、サイボウズの先輩方がつくってきた制度や文化に甘えず、変革のストーリーを知り、しっかり成長していきたいと思います。

松川:いいね、頼もしい! 今日は、みんなとおしゃべりできて、まだまだサイボウズは大丈夫そうだなって希望が見えました。これからも一緒に、盛り上げていきましょう!

一同:はい、こちらこそありがとうございました!

笑顔で話すインタビュイー4名を撮影した一枚。

企画:鈴木円香、今井豪人(サイボウズ) 執筆:玉寄麻衣 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)

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