成功条件02
ハイブリッドワークで周囲の動きが見えなくなると組織が壊れる、という話
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成功条件 01
ワクチン接種が進むなか、新型コロナウイルス感染症と共存しながらのニューノーマルな働き方に向けて、オフィスに出社する動きも出てきています。しかし、テレワークで得られたメリットを捨てて、以前の働き方にならって全員がフルタイムでオフィスに戻ることは現実的に難しいはず。そこで、オフィスとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」という働き方が主流になってくることは間違いありません。
サイボウズでは、以前からハイブリッドワークを推奨しており、長年さまざまな仕組みづくりに取り組んできました。そんな新たな働き方となるハイブリッドワークにおいては、これまで意識していなかった新たな課題も見えてきています。その課題の1つに挙げられるのが、 “情報格差”という悩ましい問題です。
ハイブリッドワークにおいて解決したい “情報格差”という問題を、どのように解消していけばいいのでしょうか。
目次
ハイブリッドワークへの移行を進めている企業が目の当たりにする、 “情報格差”という問題。この情報格差とは、テレワーク中心に働く人と、オフィスに出社して働く人が得られる情報の差です。
テレワークでは、電話やEメール、グループウェア、SNS、ウェブ会議などオンラインツールを中心にメンバー間で情報共有が行われます。一方でオフィスでは、物理的な会議室でのミーティング内容や紙による情報はもちろん、何気ない雑談など、オンライン上ではやり取りの少ない情報が、意識されずに多く共有されています。
「営業担当がお客さんとお金の話をしたなんて、Eメールで共有されてないけど」
「この前オフィスで雑談したとき、この話ってしたよね?」
「A社の見積書ってすでに承認して机の上に置いたけど、まだお客さんに提案してないの?」
などなど…。テレワーク導入以前でも起こりがちな情報格差は、ハイブリッドワークになればなるほどさらに広がってしまう危険性をはらんでいます。
特に、オフィスへの出社を希望しているのは、これまでオフィスで顔を見ながらのマネジメントに成功体験を持っている役職者の方。過去の経験から対面式のほうがマネジメントしやすく、若者と比べるとITリテラシーが十分でないことも相まって、オフィスへの回帰欲求が強い傾向にあるのです。
フレキシブルオフィスを展開するWeWork Japan合同会社が2021年9月に発表した「コロナ禍長期化における働き方」によれば、1週間のうちに何日程度オフィスで働きたいかという問いに対して、毎日オフィスがよいと回答したのは、男性20代で5.7%、女性20代で15.7%に対して、男性60代で38.7%、女性50代で43.8%となっています。
長いキャリアを経験した人ほどオフィスで毎日働くことを希望していることが明らかです。(出典元:2人に1人がオフィスとテレワークを組み合わせるハイブリッドワーク希望 [調査リリース] | WeWork)
そんなキャリアの長い役職者には、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が多く寄せられるため、多くの情報が集まりやすくなります。役職者が重要な情報をオフィス内だけにとどめてしまうと、テレワーク中心のメンバーにはその情報が伝わらず、結果として深刻な情報格差を生んでしまう可能性があるのです。
テレワークしたい人だけでなく、オフィスに出社したい人の双方にメリットとなるハイブリッドワークを成功させるには、情報格差の問題をうまく解決しなければなりません。
テレワーク環境とオフィス環境における情報格差は、主に3つの種類に大別できます。
それぞれの情報格差について見ていきながら、ハイブリッドワークに適した情報格差の解消方法について考えてみましょう。
場所による情報格差は、出社しないと入手できない情報、つまり出社を前提とした情報のやり取りや情報共有があることが主な原因です。具体的には、オフィスの会議室でのやり取りや申請書や契約書など紙文書によるやり取りなどがその一例です。
オフィスへの出社が業務の起点となっているものが残っていることで、場所による情報格差が生まれてしまうのです。また、顔の見えるオフィスだと雑談しやすく、雑談のなかで顧客とのやり取りや提案の種などが生まれることも。
オフィスにいるメンバーの方が総じて仕事に関連した情報量が多くなってしまう傾向にあるのはイメージできるところでしょう。
そんな場所による情報格差は、どのように解消するべきでしょうか。
1つ目の解決策は、物理オフィスを業務の起点にするのではなく、オンライン上にある仮想オフィスを業務の起点にする、もっと言えば“オンライン上の仮想オフィスを本社にしてしまう”という発想です。
見積や契約書、経費精算など紙で業務フローを運用している場合、どうしても物理的な場所に縛られてしまいます。そこで、情報の保存や共有、申請承認などの諸手続きをすべてオンライン上で行えば、テレワークであってもオフィスであっても、共通の情報にアクセスでき、申請状況などもオンライン上でリアルタイムに把握できます。
物理的な会議室で行うミーティングはウェブ会議などのオンラインツールに移行し、オフィスにいてもウェブ会議を通じてやり取りすることで、情報格差が解消できます。口頭でのやり取りもきちんと議事録を作成してオンライン上で共有するなど、コミュニケーションおよびその記録をオンラインに残していきましょう。
「申請書は紙でもらったほうが出社したときにまとめて作業できるのに」「口頭でやり取りした内容までわざわざ記録しないといけないの?」出社を前提に仕事をしたい人からは、そんな声も聞こえてきそうです。
しかし、オンライン上ですべての情報が共有されていれば、万一自身の体調不良や家族の事情で出社できないときの負担が軽くなります。慌てて周囲に電話をかけて引継ぎに必要な情報を口頭で伝える手間もありませんし、情報がオンライン上に的確に共有されていることで、メンバーがバックアップしやすいなど、いろいろなメリットが出てきます。
もちろん、情報が分散しないよう必要なオンラインツール上に情報を集約するルールを徹底することが大切です。
そして、情報共有だけでなくワークフローもオンライン上での運用に切り替えておけば、いつでもどこからでも状況把握でき、指示も出しやすくなります。情報が一か所に集約することで検索しやすくなり、必要な情報にもアクセスしやすくなるため、オフィスに出社を希望する人にとっても業務がはかどることになるでしょう。
オフィスにいれば、会話には参加していないものの隣の席で会話している内容からメンバーの置かれた状況が把握できる、少し離れた他部署のメンバーの会話が漏れ聞こえてくることで他部署の状況を何気なくわかるといった、無意識に情報が入手できてしまった経験は誰しもあることでしょう。
机上で作業しているメンバーの表情から「提案書づくりに悩んでいるのでは?」といった気づきも、貴重な情報の1つです。特定の宛先に向けて情報が発信された訳ではないものの、それがオフィスにいると周囲に伝わり、さりげなく声掛けできたりフォローしたりできます。
しかし、テレワークで働くメンバーには、その手の情報は入手しづらいものです。まさに宛先にまつわる情報の格差が生まれてくるのです。
ハイブリッドワークに関わらず、Eメールでのコミュニケーションは情報共有の範囲が限定されてしまうもの。Eメールを中心に情報をやり取りしてしまうことの問題意識をしっかりと持ちながら、宛先による情報格差を解消したいところです。ではどんな方法が考えられるでしょうか。
そんな状況を打開するためには、宛先に指定されていないメンバーにも情報を見てもらえるような仕組みを整えることです。サイボウズでは、きちんとした報告が求められる「日報」とは別に、宛先を指定せずに何でも気軽に書き込める「分報」という仕組みを運用しています。その分報には
「この設定、解消したいけど…なんかいい方法ないかなぁ」
「こんなメールの言い回しって大丈夫かな?」
「こんなお客さんに提案しているけど、あんまりいい返事がない」
「今からお昼に入ります。コンビニに行ってきます」
といった、自分の行動やぼやき、悩みなど、誰ともなくつぶやくようなことが書き込まれます。すると
「こんな設定すれば、たぶん解消できると思う」
「以前こんなメールをお客さまに返信しましたので参考までに」
「前にその担当者からこんな悩みを聞いたけど。提案書に盛り込んでみたら?」
「このコンビニならこれがおすすめだよ!」
などといった返信が不特定多数のメンバーから寄せられます。これは、わざわざEメールのように宛先を指定せずとも気軽に発信できる情報共有の仕組みがあるからこそ。プライベートでSNSに書き込みをするように、仕事においても気軽に発信できれば、ちょっとした変化に気づき、何かあればフォローしてあげられるはずです。
もちろん、仕事中でも気軽に発信できる文化を社内に醸成していくことが必要ですが、まずは宛先がなくとも気軽に発信できる場を作ることで、オフィスでないと得られにくい情報がテレワークであってもキャッチアップできます。
宛先のない情報を発信することに懐疑的な方もいるはずですが、テレワークしているメンバーの状況も把握しやすくなり、オフィスに出社していてもメンバーマネジメントの手助けになってくれることでしょう。テレワークで働くメンバーの状況はもちろん、物理的に距離の離れた拠点の状況も把握しやすくなる点もメリットの1つです。
時間による情報格差は、時間の融通が利くようになったテレワークだからこそ起こりやすくなります。オフィスに出社している間は仕事だけにコミットできますが、テレワークでは仕事以外のことに時間が使いやすいものです。家族が急に体調を崩すなどやむを得ない不測の事態が起こったとき、オンライン会議中でも一時的に退席するといった経験をお持ちの方もいるはずです。
オフィスに出社していても、家族からのSOSがあれば早退することもあるはずで、その時間にしか共有されない情報がどうしても出てきてしまいます。
つまり、たとえオフィスにいても口頭ベースのコミュニケーションだけに頼ってしまうと、その場に参加できないメンバーとの間に情報格差が生まれてしまうのです。どんな方法を用いれば、時間による情報格差を解消できるのでしょうか。
ここで大切なのが、口頭などいわゆるリアルタイムな同期型の情報共有に頼らず、その場に参加できなかったメンバーも情報が後追いできるような非同期型の情報共有にシフトしていくことです。
同期型の情報共有と言えば、電話やミーティングなどが代表的な例ですが、口頭でやり取りされたものはできる限り議事録に落とし込み、オンライン上で情報共有するルールを決めていくことです。
また、ウェブ会議の様子もきちんと録画したうえで誰にでも閲覧できるオンライン上に残しておくことで、その場にいなかったメンバーもあとから追いかけられます。
テレワーク中心の働き方の人に配慮しているように感じるかもしれませんが、子育てや介護はもちろん、副業など、多様な働き方を実現することにもつながります。自身の都合で出社できないことがあったとしても、あとから情報がキャッチアップできるほうが安心して休めるはずです。
ハイブリッドワークにおいて障壁となりがちな“情報格差”問題。「場所」「宛先」「時間」という3つの情報格差をうまく解消することで、快適なハイブリッドワークを実現させましょう。