オンラインキャリア入社の「馴染めない」「寂しい」はどう解消する? 200人以上を受け入れてきたサイボウズ流オンボーディング術とは
コラム
コロナ禍でテレワークが広がった昨今、入社者へのオンボーディングもオンラインで実施する企業が増えてきました。
一方で「オンラインではつながりが生まれにくい」「馴染むまでに時間がかかってしまう」などの課題を感じている企業は少なくありません。特に新卒採用に比べて、キャリア(中途)採用メンバーへのオンボーディングは体制が手薄になりがちで、多くの企業がオンラインへの移行に苦戦しています。
そんななかサイボウズでは、キャリア入社メンバーへのオンボーディングを全てオンラインで実施。2020年4月から現在に至るまで、約200名のキャリア入社メンバーを迎え入れてきました。
フルオンラインでのオンボーディングに不安はなかったのか、メンバーの関係性構築はオンラインでどのように行っているのか、オンラインにしたことによる課題はなかったかなど。こうした疑問の数々を、キャリアオンボーディングチームの武部美紀と中澤智香にぶつけてみました。
目次
会社に馴染むまで時間がかかるのは当然だし、いいオンボーディングは人事部だけではできない
――オンラインでオンボーディングを行う中で、さまざまな課題を抱える企業が多いように感じます。サイボウズはコロナ禍以降、フルオンラインでオンボーディングを実施しているそうですが、結局どんなことが大切だと思いますか?
武部:実は、わたしたちキャリアオンボーディングチームにおいて、本質的に大切にしていることはオンライン・オフライン問わず、ずっと同じなんです。
1つは、新しい環境に馴染むのに時間がかかるのは当たり前である、という価値観。一般にキャリア入社は即戦力としての活躍を求められる傾向があるので、メンバー側も「すぐに仕事に慣れて、成果を上げなければ……」と背負いすぎてしまうことが多いんです。わたし自身、キャリア入社した当初はそうでしたし、他のキャリア入社メンバーも同じように焦っていました。
しかし、サイボウズには「自立と議論」や「公明正大」など独特のカルチャーがあるため、そこに適応すること自体に時間がかかります。だからこそ、即戦力として活躍してもらうことは一旦置いておき、まずはサイボウズのカルチャーに慣れてもらうことを大事にしています。
この価値観は、人事部オンボーディング研修の中でもメッセージとして伝え続けているほか、本部のトップが個人で同様のメッセージを発信していたりもします。
中澤:もう1つ大切なのは、いいオンボーディングは人事部だけではできない、という価値観。基本的にわたしたちが関われるのは、入社しての数日と半年間の定期的に行われる研修ぐらいです。配属先で過ごす時間のほうが圧倒的に長いので、配属先のメンバーがオンボーディングを意識してくれることが大事だと思っています。
最近では、オンボーディング担当者を置いている部署・チームも多いので、彼らのコミュニティをつくって定期的にミーティングをしたり、kintoneアプリでノウハウを共有したりしています。とはいえ部署・チームによって、受け入れの経験値や温度感に差があるなど、まだまだ課題もあります。
――確かに業務が忙しいと受け入れ対応が後手にまわってしまいそうですし、受け入れ経験のあるメンバーが少ないとどう対応していいかわからなくなりそうです。
中澤:そうなんです。最近ではキャリア入社メンバーだけでなく、受け入れ担当者向けのオンボーディングサーベイを始めました。入社して1ヵ月、3ヵ月、半年のタイミングで受け入れ状況に関するアンケート調査を実施し、もしも受け入れ担当者・キャリア入社メンバー間に回答のズレがあったら、人事側からフォローを入れるようにしています。
――ツールを活用しつつ、細かい部分までケアをする体制づくりをしているんですね。オンボーディングにおける本質的な価値観を伺ってきましたが、そもそもキャリアオンボーディングチームは何を目的として活動しているチームなのか、改めて教えていただけますか?
武部:キャリア入社メンバーが「サイボウズの制度と風土に慣れて、安心して仕事ができるようになる」をコンセプトに活動しています。
わたし自身、2016年にサイボウズにキャリア入社したのですが、当時はキャリア採用メンバー向けのオンボーディングプログラムがなかったんです。入社日に出社すると、30分〜1時間ほど人事からの説明があって、配属先に行くと机にPCとパスワード、マニュアルがあるだけ。誰かがなにかを教えてくれることはほとんどなくて、「これで大丈夫なのかな?」という不安がありました。
実際、当日は他のキャリア入社メンバーからも「周囲から自分が見えていないのではないかと感じて、とても寂しい」という声を聞いたこともあります。特にサイボウズは、kintone・Garoonを使ったテキストコミュニケーションを中心に仕事のやりとりをするため、「とにかく情報量が多く、慣れるまですごく大変」という声も多くありました。
そうした背景から、2018年ごろからキャリアオンボーディングのコンセプトやプログラムをしっかり練り始めました。その後コロナ禍でオンラインへ移行し、試行錯誤を重ねて現在のオンボーディングのしくみとなりました。2020年4月から2022年8月までに、約200人のキャリア入社のメンバーをフルオンラインで受け入れています。
オンライン入社に対する不安は、入社前から徹底的に可視化し解消
――実際、フルオンラインでキャリア入社メンバーへオンボーディングをしていて感じた課題はありましたか?
中澤:大きく2つありました。1つは、オンライン入社そのものへの不安をどう取り除くか。オンライン入社は初体験の人がほとんどだし、特にサイボウズは公明正大や情報共有など独特の文化があるので、一定のキャリアを持つ人でもすぐに慣れるのは難しい面があります。
もう1つは、チーム外のつながりをどうつくるか。チームメンバーとはミーティングなどで顔を合わせますが、他部署など異なるチームの人との交流はなかなかオンラインだと難しいものです。特にキャリア採用の場合、新卒社員のように長期間一緒に研修を受けるわけではないので、他部署・チームの仲間がつくりにくいという背景もあります。
――そうした課題に対して、どうアプローチしていったのですか?
中澤:オンライン入社への不安に対しては、まず入社後の流れをできる限り可視化することが重要だと考えました。そこで採用サイト上で入社初日から6ヵ月までの流れやオリエンテーションや研修内容、サポート体制などオンボーディングコンテンツを公開しました。
武部:わたしは採用も担当しているのですが、候補者からコロナ禍でのオンボーディングについて質問を受けることも多かったんです。採用サイトで情報を公開したことによって、候補者は選考プロセスの段階から入社後の流れがイメージでき、我々もより具体的な質問が受け付けられるようになりましたね。
また入社後には、kintoneの「オンボーディングポータル」さえ見れば、オンボーディング関連で必要な情報にアクセスできるよう工夫しています。PCの設定方法や研修の内容など、入社直後に必要な情報は全てここにまとまっています。
中澤:加えて、キャリア採用メンバーへ「歓迎されている」というワクワク感を提供したいと思い、“オンボーディングチケット”の配布も始めました。入社前にパソコンをお送りする際に同梱しているチケットなのですが、遊び心のあるデザインにしているほか、お届けする段ボール箱自体もオリジナルで作成しています。
入社後研修の説明書も、ドライにならないよう研修に登壇する人の顔写真を掲載するなど、オンラインだからこそ丁寧なコミュニケーションを心がけています。
――いずれもサイボウズの社風が伝わる取り組みで、入社前後の不安が和らぎそうですね。
武部:ありがとうございます。やっぱりテレワークで一度も会社に来ない状態だと、入社の実感が持ちにくいんですよね。入社って人生の転機だと思うので、何か工夫したいという気持ちからこうした取り組みが生まれました。
チーム外のつながりづくりは「共通項」を大事にする
――もう一つの課題である「チーム外のつながりづくり」では、どのようなことをしていますか?
中澤:他チームとの交流が生まれるように、オンライン上でのコミュニケーションを促進する取り組みを実施しています。1つは、入社のタイミングで自己紹介アプリに登録してもらうこと。これは全社公開されているため、趣味や前職で共通点があるメンバーからコメントが寄せられ、そこから交流が生まれることがあります。
また毎月、新メンバーが全社向けに自己紹介をするオンラインイベントを実施しており、それもチーム外のつながりづくりに貢献しています。
武部:入社約2ヶ月後に実施する「もやもや共有ワークショップ」もその1つです。オンライン上で同期と人事だけで集まり、実際にサイボウズで働いてみて、もやもやすること、疑問や不安に感じていることなどを率直に共有し合う取り組みになっています。
おたがいにアドバイスをし合うなかで解決策を探れますし、似た立場の人が集まるので「自分だけがそう思っているわけじゃなかったんだ」と共感しやすい。結果的に不安を取り除けているのかなと思います。
中澤:この取り組みのポイントは、「もやもや」という共通して抱えるテーマを設定しつつ、同期と人事だけという少しクローズドな場にすること。
以前は「同期トーク」という、同時期にキャリア入社したメンバー同士でザツダンをする取り組みも実施していました。しかしキャリア入社メンバーは年齢も職種も経歴も異なり、新卒メンバーのように長期間ともに研修を受けるわけではないので、共通項が少ないんです。そのため、同時期に入社した人同士を集めても、何を話していいかわからず、あまり話が盛り上がらなかったんです。
こうした背景を踏まえて、現在チーム外のつながりづくりにおいては「共通項」を意識して、話しやすい仕組みや場を設計するようにしています。
「うまく馴染めない人」「困っている人」の声を拾いやすい仕組みは設計できる
――これらの取り組みに対して、実際どんな反響がありましたか?
武部:具体的な数値で効果を示すのは難しいのですが、キャリア入社メンバー向けのサーベイでは「思っていたより手厚く、安心して働けた」などポジティブな反応が多いですね。
――なかには「オンライン中心の働き方にうまく馴染めない」という人もいると思いますが、そういう人に対してはどう対応していますか?
中澤:サーベイの選択式回答において「イマイチ」「助けてほしい・相談したい」を選んだメンバーには、人事からフォローを入れています。入社したての頃はなかなか周囲に助けを求めにくいので、こうしたワンクリックで人事に助けを求められる仕組みはすごく大切なんですよね。
また、このサーベイでは自由記述のコメント欄も設けています。そこから困りごとを深掘りして、オンボーディングチームが適切な人につなぐなどして、スムーズに解決に向かえるようにしています。
――キャリア入社メンバーの困りごとを拾い上げ、すぐにフォローできる仕組みをつくっているわけですね。
武部:そうですね。サーベイもそうですが、サイボウズ自体に情報をオープンにする文化があることで、実際の反応がわかりやすい面もありますね。
たとえば、わたしたちはオンボーディングに関係する部署・チームの人たちと、定期的にミーティングをしています。その際、参加メンバーから「最近入ったキャリア入社メンバーが日報で『入社後にどんなオンボーディングがあるかわからなかった』と書いていた」というフィードバックを受けたことがありました。
そこから「もっと入社後の流れを可視化したほうがいいのでは?」「どうせならワクワク感を持ってもらえるよう工夫できないか?」など議論が深まり、オンボーディングチケットなどの取り組みが生まれたんです。
中澤:大きな研修を実施した後、日報を通じてキャリア採用メンバーの反応を見ることもあります。そうした実際の声を拾い上げて試行錯誤することで、より良い取り組みを模索しています。
コロナ禍、グローバル化、規模拡大……変化に対応しつつ「サイボウズらしい」オンボーディングを
――オンラインでのオンボーディングの仕組みを整えたキャリアオンボーディングチームですが、これから新たに取り組みたいことはありますか?
中澤:コロナの感染状況にもよりますが、オフラインのコミュニケーションにも取り組みたいと思っています。オンラインは拠点問わず、さまざまなメンバーと交流をすることには向いていますが、やっぱりオフラインのほうが深い関係性は築きやすい面がありますので。
最近では希望者に向けて、リニューアルしたオフィスの見学ツアーを定期的に行っています。オフィスって、会社の文化を感じるのにすごく重要な場所で。たとえば、サイボウズは公明正大を大事にしていますが、それを象徴するように会議室は全部ガラス張りにしています。こんなふうに、どういう意図でそのスペースを作ったのかを伝えることで、サイボウズの文化をより深く理解してもらえると考えています。
武部:もう一つ考えているのは、グローバルオンボーディングの汎用化です。現状は国ごとに独自のオンボーディングを実施しているので、日本や各国で蓄積したノウハウを共有しあい、どこの国でもサイボウズらしいオンボーディングができるようにしていきたいと思っています。
また、毎年採用者数が増えていく中で、今後もっと違うやり方を考えていく必要もあると思っています。現状のオンボーディングはいまの入社人数だからできることなので、フォローの質はそのままにオンボーディングの規模を拡大できるかが課題です。各国のノウハウやコロナ禍になって拠点問わず働ける点も活かしつつ、どうキャリア採用メンバーがスムースにサイボウズにジョインしていくか。これからも模索していきたいと思っています。
企画:今井 豪人 執筆:中森りほ 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)