成功条件01
情報格差をなくすことがハイブリッドワーク成功の秘訣
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成功条件 05
「えっ、そんなこといつの間に決まってたの?」「どうしてそんな結論に?」「以前言ってた話と違うじゃん」…こうした大変な思いをしたことはないでしょうか。
そんな状況に陥らないようにしたいところですが、オフィスとテレワークを併用させた新たな働き方であるハイブリッドワークを進めるなかでは、意思決定の経緯が見えづらくなり、これまで以上に認識のズレを感じてしまうことが起こり得ます。
特に経営層や上司の意思決定は、会議室のあるオフィスで決められることが多く、自宅などで働くテレワーク組には、いつ会議が行われたのか、どんなメンバーが集まったのか、どんな話し合いがなされたのか分からないまま、急に決定事項だけが知らされることも。そんな状況では、組織に対して不信感が芽生えてしまい、働くモチベーションの低下にもつながりかねません。
見えない意思決定によって振り回されることで生まれる現場の不信感、ハイブリッドワークにおいて解消する手立てはあるのでしょうか。
オフィスにいれば、トイレやフロアで役員の姿を見かけるチャンスもあり、「あっ、いま役員会議が招集されているんだな」と何となく知ってしまった経験はありませんか。会議内での決定事項が、参加者から漏れ聞こえてくることだってあるでしょう。仕事帰りに飲みに行けば、情報通な同僚からうわさ話を聞き出すことだってできるはずです。
しかし、自宅などで働くテレワーク組には、その兆候をつかむことすら難しいはずです。上層部の意思決定に至る経緯が不明なだけでなく、オフィスにいるメンバーとの情報格差も大きなものとなってしまいます。
経緯が分からないなかで急に決まったことだけ知らされると、一人でテレワークしている側としては混乱することなりますし、内容によっては上層部に対する不信感が大きなものになってしまわないとも限りません。ハイブリッドワークにおける情報格差は、組織の足並みを乱すリスクをはらんでいます。
HR総研が行った「社内コミュニケーションに関するアンケート2021」では、コロナ禍であった2021年1月における社内コミュニケーションに最も課題を感じる関係として、大企業では「部門間」と「部署内のメンバー同士」と挙げており、中堅・中小企業では「経営層と社員」が最も多く、26%ほどの人が経営とのコミュニケーション不足を課題として感じていることが明らかになっています。
出典:HR総研 社内コミュニケーションに関するアンケート2021 結果報告
ハイブリッドワークを組織に根付かせていくためには、重要な意思決定を行う経営層とのコミュニケーションが改善できるよう、意思決定に至る経緯も含めてすべて明らかにしていくなど、たとえテレワークであってもオフィスにいるときと同じような情報が共有できる仕組みに変えていく必要があります。
見えない意思決定に対する不信感を払しょくするためには、
といった2点が重要です。
経営会議やマネージャー会議といった、これまで公開されていなかった重要な決定が行われる会議の内容を、可能な限りオンライン上に公開していきましょう。
決定までのプロセスが見える化されると、自宅でのテレワークであっても経緯を詳しく知れるため、何か理由があってもしこれまでの方針が変わったとしても、納得感はあるはずです。
たとえば、下記の順に少しずつ公開を考えるとよいでしょう。
まずは議事録の公開です。形式は問いませんが、重要なのは経緯が現場メンバーにも明らかになることです。そのため、「誰のどういった意見によって、どういう議論が起こり、どんな結論に至ったか」をまずは要点だけでも構わないので、記して共有できるとよいでしょう。
サイボウズでは、議題・発言内容と発言・結論の3点が、経営会議の開催から間もなくして全社に共有されています。
次に、スケジュールとアジェンダの公開を考えてみましょう。「いつ何を話す予定なのか」が事前にわかることで、現場のメンバーの声が会議前にあらかじめ表に出て、上長を通して会議にて参照される余地が生まれます。自分たちの声が上層部にもしっかり届いている感覚を得られたり、最終的な意思決定に納得感を得られたりすることにつながるでしょう。
そして、最終的には経営会議そのものの公開を考えるのはいかがでしょうか。開催スケジュールを公開するだけでなく、そこから参加もOKという形式にするのです。あるいは、会議の模様を動画に残して公開するやり方もおすすめです。ウェブ会議であればレコーディング機能も活用できるので、手間は少ないでしょう。
なお、サイボウズでは、経営会議の運営メンバーや参加者を中心として、会議の「実況」も盛んに行われています。「今どんなことを話しているのか」を分刻みで、リアルタイムでオンライン上に共有する文化です。社内により広く、かつ素早く上層部のいまの状況が共有されやすくなります。
経営層やマネージャーなど、上層部のスケジュールを社員なら誰でも見られるようにしましょう。誰と会っているのかがわかるだけでも、経営陣やマネージャーの意図を推し量る材料になるため有益です。
また、サイボウズでは、1日の業務内容を報告する日報と違って、今取り組んでいる仕事の状況やそのときの気分といった「何気ないひと言」をつぶやく「分報」という仕組みがあります。
「電車遅延、そのまま客先に向かいます」
「今日のミーティング、ネタが重めだったので、ランチぐらいは軽くしたい」
「Excelでの月次報告書、老体には細かすぎて見づらいね」
といった書き込みです。まさに社内Twitterのように使われているのが分報です。
上層部の状況や考えを書き込むことで、現場のメンバーは自律的に物事を考えるきっかけになります。また、上層部が書き込むことで、メンバーも積極的に情報発信していこうという意識が強くなることでしょう。
サイボウズでは、会社の長期的な戦略を検討する社長ひとりのブレインストーミングの様子も全社公開するなど、より発展的な取り組みにも挑戦しています。
ウェブ会議で開催しているため、リアルタイムに見るだけでなく、あとから確認できるよう動画が残されており、誰でもコメントで意見できるようにしています。
また、最近は「助言収集」という仕組みを実験しています。経営会議で議題を挙げる際に、指定した現場メンバーに事前に助言を仰ぎ、収集して一覧できる仕組みです。
賛成・反対や、その補足コメントだけでなく、「積極的に議論に参加するか、具体的な議論や意思決定はおまかせするか」といったコミット度合いも表現できるようになっています。
そのため、あくまで最終的な議論に参加するメンバーは、経営陣や「積極的に議論に参加する」と覚悟を決めたメンバーに限定しつつ、現場の肌感覚も豊富に集められます。自由かっ達な意見を広く集めつつ、秩序ある意思決定を下せる仕組みづくりに貢献しそうです。
こうした取り組みは、経営層だけの判断が必ずしも正しい訳ではなく、現場の意見も取り入れながら精度の高い意思決定をしたいという思いがあるからです。また、意思決定された結論が現場に降りてきたとき、その過程を知っているからこそ納得感があり、スムーズに受け入れられると考えているからです。
このようにして、ハイブリッドワークでも現場の感覚を踏まえて精度高く、また現場メンバーが納得して遂行できる意思決定を上層部が下すには、オンライン上で過程を共有することが大事なのです。
もちろん、どうしても全社公開は難しい情報もあることでしょう。その場合は、非公開にする理由もきちんと説明していくことで、情報の格差は最小限にできます。また、アクセス権を簡単に設定でき、情報の公開範囲を適切にコントロールできるツールを活用することで、公開・非公開が混じった情報共有の運用も、軽い負担で実現できるでしょう。