現状を否定しないことでベテラン社員の"システム嫌い"を克服する──「どこにでもある中小企業」が理想のハイブリッドワークを実現するまで

相互電業

60年以上の歴史を持つ、北海道十勝・帯広の電設会社、相互電業。10代の若手から80代のベテランまで、さまざまな年代の30名ほどが在籍する同社では、当初は全員出社が必須というごく当たり前の働き方でした。

しかし、そこで勤める今野 愛菜さんは、ある日こんな想いを強くします。

「柴犬の茶々丸(ちゃちゃまる)との生活と仕事を両立させたい。そのために在宅勤務を組み合わせた働き方を実現したい」

今野さんは、在宅勤務の制度や仕組みの整備・浸透に挑戦。現在では、今野さんは週2回の出社以外は自宅で働くハイブリッドワークを実現、ほかの社員も自宅で働くケースが出てきていると言います。

周囲や本人の不安解消、ツールの活用、ベテラン社員の巻き込みなど、工夫と試行錯誤の末にハイブリッドワーク実現にたどり着いた、今野さんの軌跡を取材しました。

今野さんが取材を受けお話をされている様子
相互電業株式会社 今野 愛菜さん

「愛犬と一緒に過ごす時間を増やしたい」ハイブリッドワークを実現しようとしたワケ

「誰しも“こうやって生きていきたい”という、ある意味わがままをかなえるために働いているものだと思っています。私の場合は茶々丸と一緒に過ごす時間を増やしたい、そのために在宅勤務をしたいという願いが強かったのです」。

今野さんが在宅勤務を強く願ったのは、家族である愛犬ともっと一緒にいたい想いからでした。

今野さんの愛犬・茶々丸が元気よく笑っている様子
今野さんの愛犬・茶々丸

相互電業には、現場で工事を担当する工事部とともに、営業部、そして今野さんが所属する管理部があります。

もともと工事部のメンバーは現場にいて、オフィスにいない時間もあったものの、工事終わりにはオフィスに戻るなど、あくまでオフィス中心の働き方でした。また、外出しない管理部のメンバーは毎日オフィスに出社するという、よくある働き方の企業です。

在宅勤務を取り入れたい——しかし、同社に在宅勤務の制度はなく、ツールも当然整備されていませんでした。茶々丸と一緒に過ごしたい想いは持ち続けていたものの、在宅勤務を会社に根付かせるノウハウは持ち合わせず、今野さんは悩みます。

そこで出会ったのが、「”100人いたら100通り”の働き方」というサイボウズの働き方改革セミナー。そのセミナーに参加した今野さんは、さっそく行動に移ります。

「うちでも”30人30通り”の人事制度が作れるんですと、社長や部長、管理部のみんなに熱く語りました。当初は必要な書類を無理やり持ち帰ってでも自宅で仕事ができればいいと考えていたのですが、kintoneを始めとしたクラウドサービスを利用して業務改善を進めれば、そんな無理もなく在宅勤務の環境を整えられると考えたのです」。

制度の整備とツールの浸透の両輪から「ハイブリッドワークでも大丈夫」という風土へ

今野さんは、2年ほどかけて業務プロセス自体の改善も進めながら、業務や情報のクラウド化を推進。また、ほかの企業の在宅勤務も参考にしながら、就業規則の改訂も進めていきました。

「上司の不安や、自分が在宅勤務する上での不安をすべて解消できるよう“盛り盛り”なルールを作って、これでどうですかと上申しました」。

しかし、周りは冷ややかでした。ある意味、独断でルールや制度の改訂を進めてしまったことで「やり過ぎでは」という雰囲気が職場に広がり、かえって在宅勤務したいと言いだしづらい状況に陥ってしまったと言います。

「私が最初に在宅勤務に名乗りを上げたら “今野さんがわがまま言ってる” “家で寝てサボるんじゃないの?”みたいに思われてしまう恐れもありました。すぐにでも始めたかったですが、現場から反発されないよう、静かにチャンスを見極めることにしました」。

そんな今野さんのもとに、チャンスがやってきます。上司が子どもの様子を見る目的で、週に1回ほど在宅勤務したいと話し始めたのです。今野さんははやる気持ちを押さえて、「ぜひやってみてくださいよ」とさりげなくおすすめします。

また、社長の心を動かし、「30人30通りの人事制度」を実現する意義や、その方針を社長が全体朝礼で話してくれたことも後押しとなり、晴れて上司が在宅勤務の第一号に。いよいよ今野さんが強力に推し進めてきた在宅勤務が現実のものとなるのです。

在宅勤務でも支障なく業務が回ることが上司の実践で分かり、満を持して今野さんも在宅勤務を宣言。それでも最初は控えめに、週に半日だけのテレワークでスタートします。

「テレワークしているときの現場の様子や、コミュニケーションに問題がないかを繰り返しヒアリングし、在宅勤務でもうまく仕事ができる認識を広めていきました。そんな管理部の様子を聞きつけ、ついには営業部のメンバーからも在宅勤務したいという声が上がってきたのです」。

そのあと、もともと外出が多く在宅勤務のような働き方をしていた工事部のベテラン社員も、正式に在宅勤務を宣言。社内で在宅勤務へのアレルギーがなくなった雰囲気を感じ取った今野さんは、本人も週2回だけの出社に切り替えるなど、本格的にハイブリッドワークへと舵を切りました。

制度としての就業規則を整えながら、業務改善を可能にするツールとしてのkintoneを社内に広め、最終的に在宅勤務を認め合える風土を作り上げることに成功した訳です。

情報とコミュニケーションを集約、kintoneをハイブリッドワークの業務基盤に

ハイブリッドワークが広まった今では、業務基盤としてkintoneを全社員で利用。手軽なコミュニケーションツールとしてチャットツールも併用しながら、情報共有や業務改善に取り組んでいます。

「毎日kintoneに触れてもらえるよう、勤怠管理サービスを連携させています。kintoneを開かないと出勤時間が打刻できないようになっているんです」と社員が日々kintoneにアクセスしてくれるよう工夫しています。

kintoneでの勤怠管理アプリの解説
kintoneでの勤怠管理アプリの解説(今野さんご提供の図表)

具体的には、

  • 案件の進捗管理
  • 見積進捗
  • 請求書
  • 勤怠管理
  • 日報
  • スケジュール管理
  • 社内の提出書類管理

など、業務に欠かせない仕組みはすべてkintoneアプリで行っています。

kintoneでの案件管理アプリの解説
案件管理アプリの解説(今野さんご提供の図表)

また、経営会議の議事録なども全社公開しているのだとか。

kintoneでの経営会議の議事録を実際に社内で公開している一例
経営会議の議事録を実際に社内で公開している例(今野さんご提供)

「誰でもアクセスできるよう、鍵(アクセス権)は絶対につけないルールを徹底しています。情報を隠し始めてしまうとkintoneの意味がなく、1人1人がExcelで情報を抱えているのと同じことですから」。

スレッドの使い方もバリエーション豊富で、雑談も含めた簡単なチャットスレッドもあれば、資格に関する情報スレッドや工事に関連した協力会社の方の空き状況スレッドなどもあります。

kintoneでのスレッドの実際の利用例
スレッドの実際の利用例(今野さんご提供の図表)

「基本的には何でもkintoneに書き込んでもらうようにしています。どうしてもみんなの前で話しづらいことは、非公開のチャットツールでしゃべっています」。

電話やウェブ会議は、テキストで伝えるには文字量が多い、または今すぐこの感情を伝えたい、文字だけでは伝えきれない、といった場合に使っているとのこと。

「電話やウェブ会議を使う際も、情報を属人化させず社内に溜めていくため、まずは概要をkintoneで伝えます。そのあと、電話で詳しく話すなど、併用する形でうまく使っています」

ハイブリッドワークの孤独感は、オフィスメンバーのマインドチェンジに救われた

在宅勤務を中心としたハイブリッドワークに切り替えたことで、当初は「孤独を感じることもあった」と言います。

「もともと管理部のメンバーは外出が少ないため、オフィスで雑談する機会も多くありました。しかし、家にいると出社している人の会話やそこで交わされる情報は入ってきません。やっぱり孤独を感じることは多かったですね」。

そこで、「一人で仕事をしているみたいで寂しいんです」と素直にメンバーに打ち明けた今野さん。それ以降、多くのメンバーがチャットにも反応してくれるようになり、「取引先さんからお菓子をもらったよ」なんてできごともチャットで送ってくれるようになったとか。

「チャットが来るたびに大喜びしていたら、みんな、私にいろいろ見せてあげたいと思ってくれるようになったのか、たくさんチャットを書いてくれるようになりました。今は在宅勤務でも全然寂しくありません」。

オフィスにいるメンバーのマインドチェンジによって、在宅勤務の際に感じる孤独を解消することにつながったようです。

自分事だと“勘違いさせる”通知機能が功を奏す

kintoneを入れたことで、これまで関わりがほとんどなかったベテラン社員と若手社員の交流という効果も生み出していると言います。今野さんは「奇跡のようだ」と語りますが、そこに貢献したのはkintoneの“通知機能”でした。

もともと、若手同士の助け合いは行われていました。しかし、ベテラン社員は大きなプロジェクトに参加することも多く、オフィスにいても自分の図面に集中しがち。どうしても若手とベテランの分断が起こっていました。

しかし、仕事の情報がkintoneに集まると、ベテランもkintoneを頻繁にのぞくことになり、若手と同じ情報に触れる機会が増えます。

そんなとき「あれ?この現場なら近いから、俺いけるよ」と若手に声をかけるベテラン社員が現れました。若手の案件の状況がkintoneの通知として目に入った結果、自らの足で若手の方に向かい、声をかけてくれたのです。

kintoneでの案件管理アプリの解説
案件管理スレッドの活用の様子(今野さんご提供の図表)

社員同士での声掛けに広がったきっかけは、案件の状況を共有するスレッドを作成したこと。このスレッドに参加するメンバーには、新たな案件の情報が書き込まれると通知が届きます。

実はこのときの案件の共有は、特定の社員に宛てたものではありませんでした。しかし、この通知を「自分に向けられた案件の共有だ」とベテラン社員が“勘違い”したことが、やり取りが少なかったことで抱えていたメンバーの孤独を解消し、チームワークを強くするきっかけとなったのです。

「“俺宛の通知が来た!”とベテラン社員が勘違いしてくれたようです。その結果、若手の書き込みにベテランが反応するという奇跡が起こったのです」。

現在は、案件の工程管理をkintoneのアプリに移行。ステータスの管理も行っており、「問い合わせ」から「見積完了」のステータスに移らないと、「見積は提出しましたか?」というリマインダー通知が届きます。

人が都度送信しているようなリマインダー通知の様子
リマインダー通知の様子。自動で送信されており、人が都度送信しているものではない

このリマインダー通知も「誰かが自分のために手動で連絡してくれているんだ」と思い、毎回コメントを返してくれるベテラン社員もいるのだとか。

「なんでコメント返してくれるんですか? と聞いたら、“だって今野さんが毎回書いてくれているんでしょ”と。そう思ってくれているならうれしいですと答えておきました(笑)」。そんなやり取りも、ハイブリッドワークにおいて感じやすい孤独感の解消につながっているようです。

この通知機能のおかげで、もともと他人事だった経営についても自分事に考える社員が出てきた様子。経営会議の資料がkintoneに共有されると、多くの社員が資料を見るようになったようです。

「俺に会議の報告が来たな、みたいに考えてくれているようです」と今野さん。

現状を否定せず、理想に共感してもらうアプローチが重要

今ではkintoneがすっかり定着していますが、そこに至るプロセスにはさまざまな苦労がありました。

kintone導入以前から、社長を中心に業務効率化に向けた取り組みにトライしてきた経緯があります。ワークフローツールを導入して精算書や請求書の電子化に挑戦し、業務基盤としてSalesforceを活用したことも。試行錯誤を繰り返すなか、ようやくたどり着いたのがkintoneでした。

ツールが現場に馴染まなかった経緯もあり、社員には”システムアレルギー”のようなものがありました。kintoneを導入するときも「また何か新しいことを始めるんですね」といった雰囲気があったと当時を振り返ります。

「現場の人は、紙で図面を見て、手で書き込んで、電卓で計算する。そんなことに慣れていて、それが一番いいやり方だと思っていたはずです。それを否定してしまうと、kintoneは使ってもらえません」。

そこで今野さんは、現状を否定せず、「どうなったらうれしいのか」から問いかけていきました。

「もっと簡略化したい、二重入力しているが無駄、転記が多くて困る、といった声が聞こえてきた段階で、“それを解決するには紙では限界がありませんか?”と何度も語りかけていきました」。

「自分もパソコンが苦手だ」と共感してもらいながら、「慣れてくれば効率が上がるし、情報も集まりやすくなる。目指しているのは同じ理想じゃないですか」「じゃあクラウド化して見て、うまく行かなければ戻せばいいので、みんなでやってみましょうよ」と周りをその気にさせていったのです。

今野さんがアプローチした課題を解決までのプロセス図
サイボウズの「問題解決メソッド」も参考にしたという(今野さんご提供の図表)

「誰でも管理者になれる」「分かりやすい」など、kintoneそのものの魅力についても現場に浸透させていく際に重宝しました。

「これまで入れてきたツールは、現場を巻き込みづらい、高額なので社長など誰か1人しか管理者になれない、そのためなかなか業務を改善できなかったことがうまく現場に広がらなかった理由の1つです。誰でもアプリが作れるkintoneであれば、とりあえず進めてみることができます。利用者が分かりやすいよう文言も自由に設定できますし、みんなのアイデアをそのまま生かせるシステムだということが大きい」。

システムアレルギーを解消し、ツールを現場に浸透させるには、従来のやり方を否定せず、よりよいやり方に共感してもらうこと。そして、ツール自体が使いやすいことが重要と言えそうです。

がんじがらめのルールも、運用していくなかで現実的なものに変えていく

テレワークについても、始めた当初は「家で寝てるだけじゃないの?」なんて心ない言葉を投げかけてくる人も。そこで、最初はカメラをつけっぱなしにするというルールを作り、働いている自宅の様子を見せるという試みも実施したと言います。

「確かに別の部署の人からすると状況が分からないことで不安に感じることもあるでしょう。そこで、在宅勤務中の状況を中継しました。ですが、結果は誰も見ていないし、のぞきにも来ないという…。”誰のためにカメラをオンにしているのか分からない”と素直にフィードバックしたところ、結局カメラはなしでいいとなりました」。

また、在宅勤務時に上司が不安にならないよう、勤務の開始報告や中間、終了報告を行うkintoneアプリも作った今野さん。

しかし、上司がわざわざ確認しても、具体的にどんな業務をやっているのかの詳細までは把握できず、逆に承認に無駄に時間がかかるだけに。最終的には「今日はここまでやりました」という報告だけで十分だと上司も納得してくれたそうです。

このように、今はシンプルな運用にたどり着いていますが、その過程には、離れて働く人の不安を1つ1つ解消するべく、トライアンドエラーを繰り返した苦労がありました。ある意味「どこにでもある中小企業」のハイブリッドワーク実践例として、参考にできる企業は多いのではないでしょうか。

現場とオフィス、そして在宅。離れて働いても、使いやすいツールに情報を集約することで、場所による情報格差を排除でき、理想的なハイブリッドワークを実現できたのです。

kintone

使われたサイボウズ製品は?

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